死神シオンと空っぽなお爺さん

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 ある町の外れに小さなお屋敷が建っていました。  赤い屋根と白い壁が特徴的な木造2階建てで、ヨーロッパのお城をそのまま小さくしたようなとても素敵なお屋敷です。1階には大きなテラスがあり、広大な庭には噴水も設置されています。  そんな立派なお屋敷に、80歳ほどのお爺さんが1人で暮らしいました。家族や、お手伝いさんのような方の姿も見当たりません。お爺さんはとても痩せていて、歩くのやっとな様子ですが、それでも1人で暮らしていました。  お屋敷には来客もなく、お爺さんはいつも1人でした。    ところがある日。お爺さんがいつも通り、1人で食事の支度をし、1人で食べ終え、一息ついてベッドに横になり、趣味の本を読んでいた時のことです。  突如、1人の女の子が、お爺さんの前に現れました。  女の子はまるで初めからそこにいたかのように音もなく現れ、お爺さんが気付くといつの間にか彼の寝るベッドの脇に立っていました。もちろん、ドアは空いておらず、窓には鍵が掛かっています。  他に誰もいないはずの部屋に音もなく現れた女の子。それだけでも異常事態ですが、加えて女の子の見た目も異質なものでした。  彼女の背中には、人間のものとは思えない、黒い羽根が生えていたのです。 「私は、死神のシオン」  と、黒い羽の生えた少女、シオンは淡々と言いました。  それに対して、お爺さんも読んでいた本に栞を挟んでからゆっくりと顔を上げて落ち着いて答えました。 「そうかい、よく来たね」  お爺さんの様子を見て、シオンの方が無表情のまま首を傾けます。 「驚かないの」 「あまりね」  と、お爺さんはなおも落ち着いた様子で、知人に話しかけるようにやさしく言います。 「なにせ、もうワシも年だ。いつ死んでもおかしくないのだから、死神が見えたところで不思議もないだろう」  シオンはお爺さんの答えに納得したのか、小さく頷きました。 「ようこそ、シオンちゃん。君がこのお屋敷で、初めてのお客さんだ。歓迎するよ」 「お邪魔します」 「どうぞ、ごゆっくり」  お爺さんはそう言って、近くの椅子に座るようシオンに勧めたあと、自分はベッドから、よっこいしょ、と立ち上がり、ベッドの横に置いてあるポットで2人分のお茶を用意し、棚からクッキーを取り出しました。 「召し上がれ」 「ありがとう」  シオンはそのお茶を受け取り、お礼を言った後でゆっくり飲みました。お爺さんもそれを見て、優しく微笑みながら、カップに口をつけます。 「それで、シオンちゃん。死神がワシにどんな用かな?」  そうして2人はゆっくりお茶を1杯飲んだ後、お爺さんがやっと本題を切り出しました。 「もしかして、ワシはもう死んでいるのかな? それなら死神が見える説明もつくのだが――」  と、お爺さんは、2杯目のお茶を飲みながら尋ねました。 「いいえ、あなたはまだ生きている」 「まだ?」 「あなたが死ぬのは、今からちょうど1週間後。それを伝えるために、私はあなたの前に現れた」  と、シオンは、出されたクッキーを口に頬張りながら答えました。 「それはそれは、ご親切にありがとう」 「驚かないの?」  またもシオンは、首を傾げる。 「あまりね。さっきも言った通り、ワシはもう年だ。長くないのは、自分が1番よく分かっているよ」  そう優しく、しかし、どこか寂しそうに微笑みながら言います。 「あと1週間か……」 「そう。1週間後にきちんと死ぬかどうかを監視するのが、私の役目」 「すると、シオンちゃんは、私が死ぬまでここにいるのかい?」 「そう。1週間、よろしく」  シオンはそう言い、お爺さんも、 「こちらこそ」  と、また優しく微笑みました。  こうして2人の奇妙な最期の生活が始まりました。
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