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1日目。
「未練はある?」
と、シオンはお爺さんに尋ねました。
「いや、ない」
と、お爺さんはシオンの問いに即答します。
すると、またもシオンが不思議そうな顔で首を傾げました。
「本当にないの?」
「ああ、ないよ。シオンちゃんは、ワシに未練がないと困るのかい?」
「困らない」
シオンは首を振って否定します。
「未練があるのなら、出来る限りなくせるよう、私も協力しようと思っていた。でも、ないならないで構わない」
「それも、死神の仕事なのかい?」
「違う。さっきの質問と私の役目は、一切関係ない」
「おや、ならどうして?」
「私、個人の興味」
「へぇ」
と、お爺さんはここで初めて少し驚いたように目を丸くします。
「君にも感情があるんだね。死神というから、てっきり個人の意思や考えはないと思っていたのだが。無表情だしね」
「よく言われる」
シオンは、そう冷たく答えました。しかし、感情があると知った後だからでしょうか、お爺さんにはそれが少し楽しそうに微笑んでいるようにも見えました。
お爺さんもそれにつられて、頬を緩ませます。
「そうか、だけど残念だったね。ワシには、この世に未練なんてないんだよ」
「そんなことはない」
と、シオンは、またお爺さんの言葉を否定しました。
「あなたにも、未練はきっとある」
「おや、どうしてだい?」
「だって、未練がない人は、そんなに悲しそうに笑わないから」
「…………」
お爺さんは、何も答えません。
そう言ったシオンへ、ただ、静かに優しく微笑んだだけでした。
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