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4日目。今日も昨日に引き続き、外は大雨です。
死神に宣告された最後の一週間も半分以上が過ぎ、お爺さんの寿命も残りわずかとなりました。
しかし、相も変わらず、
「チェックメイト」
「――っ!」
お爺さんは普段と変わらない微笑みを浮かべ、シオンとチェスをしていました。チェスの成績は、これでちょうどシオンの50連敗です。
50回とも変わらず、シオンが白で、お爺さんが黒。これは2人の間でお約束になっていました。
「…………」
と、シオンは負ける度に膨れ、静かにお爺さんを睨みます。そして、そんなシオンをお爺さんがおだて、機嫌を取り戻した彼女ともう1戦。
昨日とまったく変わらない風景。そして、51戦目。2人はいつも通り雑談を交わしながら、駒を進めていきます。
「強い」
「いや、ワシなんてまだまだだよ」
「チェスはどこで覚えたの?」
「中学校の教員をしていた頃、チェス部の顧問になったことがあってな、その時に覚えたよ」
「先生だったの?」
シオンは少し驚いた様子で尋ねました。
「ああ、数学を教えていたよ」
「意外」
「ふっふっふ、だろうね。自分でもおかしいと思うよ」
「どうして、先生になったの?」
「たまたま教員免許が取れたからさ」
「それだけ?」
「ああ、特に理由はないよ。他にやりたいこともなかったから、なれる先生になった、それだけだよ」
お爺さんは微笑みながら答えます。
「酷い教師だったよ。情熱もなく、毎日数学をただ教えるだけで、生徒と全く向き合おうともしなかった。生徒たちはきっとワシのことを憎んでいるだろうね」
と言って、お爺さんは駒を1つ掴み、
「チェックメイト」
「……また負けた」
「ふっふっふ。じゃあ、チェスはこれくらいにして、夕飯の支度をしよう。何がいいかな?」
「ご飯!」
「いや、勿論お米は出すけど……」
「冷たいの!」
「わ、分かった。じゃあ、シオンちゃんのご飯は冷ましておくよ」
思わぬシオンの反応に驚きつつも、お爺さんはゆっくりとベッドから立ち上がります。
「手伝う?」
「大丈夫、1人で出来るよ。ずっとそうしてきたしね」
そう言って、いつも通りに1人でお爺さんは台所に向かいます。
いつも通り黙ってその背中を見送ったシオンは、その背中を見て小さく呟きました。
「……悲しそう」
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