死神シオンと空っぽなお爺さん

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 5日目。 「どうして、そんなに悲しそうに笑うの?」  普段通り2人でチェスをしている時のことです。唐突にシオンがそう尋ねました。 「どうしたんだい、急に?」  お爺さんも目を丸くします。 「ずっと気になっていた。お爺さんが自分からその理由を話してくれるのを待っていた。でも、もう5日目。今日も含めて、あと3日しかない。だから、自分から尋ねた」  シオンはお爺さんを真っ直ぐ見つめながら、再び尋ねます。 「どうして、お爺さんはいつも悲しそうなの?」 「特に理由はないよ」 「ウソ」 「ウソじゃないさ。強いて言うなら、理由がないのが理由かな」 「分かるようにお願い」 「ふっふっふ、いいよ。そういえば、昔も良く、生徒にこうやって質問された」  お爺さんは笑います。しかし、その笑みもやはりどこか空ろで、空しく響きました。 「ワシはね、空っぽなんだ」 「空っぽ?」 「ああ。ワシには何もないんだよ。家族も好きな人も嫌いな人も好きなことも嫌いなこともやりたいこともやりたくないこともやり残したことも、何1つないんだ」 「じゃあ、仕事は? 教師は?」 「昨日も言ったが、教師にはなれたからなっただけだよ。好きでも嫌いでもない」 「この屋敷は? こういう物は入手が難しいと聞いた」 「教師時代の貯金で買ったんだよ。特に買いたい物がないから使わずに貯めていたら、結構な額が貯まってね。退職祝いに買ったんだよ」 「未練も」 「ないよ」  当たり前のことのように言うお爺さん。  好きな人がいなければ1人でいても平気だし、やりたいことがなければ何もしなくて良い、生きたいとも思わないから死にたくないとも思わない。だから、勿論未練もない。  死神も1人です。お爺さんの言葉をシオンも理解できたのか、小さく頷きます。  しかし―― 「ワシが悲しそうに見えたのなら、きっとそれが原因だね。でも勘違いしてはいけないよ、ワシは少しも悲しくないんだから」  シオンはこの言葉にも頷きます。  何もなければ、悲しいとも思わない。死神も同じだから。  それでも―― 「いいえ、あなたは悲しそう」  シオンはお爺さんの主張を否定しました。1日目、お爺さんが未練はない、と言った時のように、今回もまた。 「納得できないならそれでもいいよ、納得して貰おうとは思ってないからね」  と言ってお爺さんは、チェスの駒を1つ手に取ります。 「チェックメイト」 「また負けた」 「ふっふっふ、残念」 「あなたが死ぬまでに、絶対勝つ」 「頑張って、応援しているよ」  お爺さんは微笑み、チェス盤を片づけるために1度立ち上がり、チェス盤を手に取って少し離れた棚の中に置きました。 「空っぽなんてウソ」  その背中を見ながら、シオンは呟きました。その声はお爺さんには届きません。 「――だって、チェスをしている時のあなたは、とても楽しそう」
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