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そして、ちょうど18時間後。お爺さんは息を引き取りました。
その顔はとても穏やかで、まるで眠っているみたいでした。もしも、寝ているだけなら、きっととても良い夢を見ているに違いありません。
「…………」
シオンはそれを静かに見届け、間もなく、現れたときの様に、次第に透明になり見えなくなっていきます。
完全に消える前、シオンはふっとお爺さんとよくチェスをした、あの机の上に目をやりました。
そこには、白い一枚の紙と、駒の乗ったままになっているチェス盤が置いてあります。盤上では、白が黒にチェックメイトをかけていました。
「…………」
シオンは少しだけ頬を緩ませ、そして完全に消えてしまいました。
窓から吹き込む風で、チェス盤の横に置かれていた紙が飛ばされ、部屋の中を舞います。
飛ばされた紙にはお爺さんの字で、こう書かれていました。
『ありがとう。君たちに出会えて、ワシはとても幸せだった』
――ある町の外れに小さなお屋敷が建っていました。
そのとても素敵なお屋敷にはお爺さんが1人で暮らしていました。
幸せに。幸せに暮らしていました。
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