灰のように、砂のように

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 目を開ける前までは、なんだか眩しい朝だと思っていたんだ。  眩しいはずだ。  たった一晩で、世界が真っ白になっていたからな。ただ、雪が積もっている、とかいうわけではないらしい。  俺はどこか道の真ん中に転がっているようだった。身体は妙に怠く、動かすのが億劫だ。頭と目だけ動かして辺りを見てみる。周りの建物の形に見覚えはあるが、とにかく全部真っ白で、具体的にどこなのかはっきりしない。第一、街中なんかで寝た覚えもなかった。  なにが起きたのか分からないが、自分を除く全部が白いなにかに変えられている。形はそのままなんだ。でも材質が白い砂だか灰だかになってる。建物も、街灯も、草や木や道路やらも、全部。雪祭の雪像みたいに、白い粉を固めて彫り出した感じだ。  真上にある空らしきものも、雲に覆われたように全部が真っ白で、あちこちでなにかを降らせている。一見雪みたいに降り落ちるそれは、さらさらと白く、ビルや街路樹を少しずつ形作っては固まっていく。  ああやって、世界を造り変えているんだな。  漠然と理解した。不思議だとは思ったが、怖いとも有り得ないとも感じはしない。そうなったのなら仕方ないとすぐに受け入れられた。それに、そう居心地も悪くはない。色のない世界は全部が平等で、無機質に味気なく、整然として静謐で、とても眩しかった。  俺はなんとか身を起こし、どうしようかと暫し考えた。こうも世界が変わっちゃあ、昨日までと同じってわけにゃいくまい。仕事も人間関係も、今はどうにもしようがないだろう。そもそも人のいる気配もない。  一先ずは、“自宅”を探して帰ってみるか。  方向の見当をつけて、俺はのそのそと歩き出した。
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