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目が覚めると真っ白な場所にいた。
身を起こして歩く。私は裸足だったが、床は硬くもなくやわらかくもない。
光の中かと錯覚していると、次第に目が慣れて、ただの白い空間ではないことが分かった。
空間の面積は正確に把握できないが、眼前に開けていた光景は圧巻だった。
白い丸机と白い椅子。そして壁には無数の本が並べられているのだが、そのどれもが、白一色なのだ。
本棚も、本の装丁も、タイトルも全てが白。
(何……? ここ)
息をのむ。この場所も、ここに来た経緯も全く思い出せない。
一歩、踏み出す。
その感覚、空気の匂い、心拍音さえもリアルで現実としか思えない。
「よくここにたどり着きましたね」
不意に声がして振り返る。
いつからそこにいたのか、1人の男性が立っていた。
服装は白い法衣のような格好で、手には聖書のようなものを持っていた気がする。声は男性のものだったが、顔はどうしても思い出せない。若いようでもあり年配だった気もする。
「すいません、勝手にお邪魔して」
私は頭を下げた。不法侵入をした気持ちになっていた。
男性は気にした様子もなく言葉を続ける。
「ここは"しんり"の部屋。全ての"しんり"が収められているのです。あなたの知りたい"しんり"は何ですか?」
その言葉を聞いて私は、その"しんり"が、『心理』ではなく『真理』であることを理解していた。
壁を見回すと無数の本。近くで見ても、やはり装丁は全て白。目視の限り個々の本は、ハードカバーの小説一冊分の厚さだった気がする。
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