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寒い朝と長いマフラー
「寒い。寒いぃっ!」
そう言って幼なじみのリツは、身を震わせた。
凛と冷えた空気にさらされ、頬が子供のように赤くなっていた。
呼吸をする度に、白い息がふわりと現れる。
たしかに寒い。
そういえば、天気予報で今日はこの冬一番の寒さだと言っていた。
最強寒波がどうの、こうの。
「そら、まぁ。冬やし。寒いのは当たり前や」
「わかりきったこと真顔で言わんといて。腹立つわ」
「ほな、笑顔で言おか」
「それもいやや」
「じゃあ、どんな顔したらええねん」
「温くなる顔」
「肉まんみたいな顔か?」
「それはお腹すく顔やっ!」
リツは鞄で俺の背中をボコッとどついた。
なんでこいつは朝からこんなに元気なんだ。
「なんで男子は長ズボンなん!なんで女子はスカートなん!不公平や。男子もスカートにしろ。せめて半ズボンはけ!」
なんかまたとんちんかんな事を言い出したぞ。
「そこは女子の制服に長ズボンを導入しようや」
「それはいやや。可愛くない」
「なんやねんそれ。ほなタイツでええやん」
「タイツはいても寒いもんは寒いんや!うちはこの寒さをあんたにも味あわせたいんや!」
なんと理不尽かつ勝手な言い種か。
俺は、「あほくさ」とマフラーに口元を埋めた。
「つか。なんでネックウォーマーしてないん。いつものはどうしたん」
リツはいつもギンガムチェックのネックウォーマーをしていた。だが、こんな寒い日にかぎって、それをしていない。
「出掛けにココアこぼしてん」
うん。リツらしい理由だ。
「どんくさいやっちゃなぁ。代えはないんか?」
「探すんめんどかってん。急いどったし。この寒い中であんた待たすんも悪いやろ」
・・・俺に気を使ったのか。
不意に強い風が吹き、リツが身をちぢこませた。
「そういえばさ、あんたのマフラーなんでそんなに長いん。普通の3倍くらいの長さあるで。赤いからなん?」
「なんで赤いのと長いのが結びつくねん」
「3倍くらいありそうやから」
「・・・意味がわからんわ」
「通常の3倍は、赤いって決まってんねんで。知らんの?」
「それスピードの話しやろ」
「なんでもええねん。3倍は赤いんや」
どういう理論だよ。
俺はたまにリツの頭の中がわからなくなる。
「で、なんで長いん」
長い理由。
それは、今日のような日のためだ。
「教えて欲しいか?」
「うん。知りたい。教えて」
「それはなぁ・・・こうするためや!」
「わぁ!!」
俺はマフラーたわませて、リツの細い首に巻き付けた。
俺とリツが赤いマフラーでひとつにつながる。
リツは驚いたが、構うものか。
「こうやったら、ふたりで温いやろ」
そう言って、俺はリツと手をつないだ。
触れ合う肩にお互いの体温計を感じる。
「・・・うん。温い」
リツの赤い頬は、きっともう寒さのせいじゃない。
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