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拓海は少しした後、神妙な感じで聞いてきた。
「あの、慎平さん」
「何だよ」
「本当に未練……」
と言って言葉を止める。言いにくそうに言うのが気に入らない。
「それがわかりゃ苦労しないんだよ」
俺は語気を荒くした。
「もし、じゃああいつに未練があったとして、いつそれが解消されるんだ? お前が久実子と別れたらか? 違うだろ。だからって俺が付き合えるわけでもないし」
俺がそう言うと、拓海はくだらない相槌をする。
「そうですね」
「急に敬語になるなよ」
そいうのが気に入らない。
「だってその、俺」
拓海は言いにくそうに言葉を濁す。
「どうせさっさと出て行けって思ってるんだろ。あれだな。一度こっぴどく振られれば、この世に残る気もなくなるかもな」
俺が自虐的に言うと、拓海は慰めようと思ったのか、俺の言葉を否定するようなことを言うが、正直逆効果だと思った。
今久実子と付き合っていて、幸せそうなやつに言われたくない。
「他にやり残したこととかないんですか?」
俺が強く言ったからなのか、敬語を直す気はないらしい。
「やり残したこと? そんなの……」
いっぱいあるに決まってる。でも、これといって思いつかないのは事実だ。いかに自分が適当に流されて生きてたか思い知らされる。
「お前は生きてるんだから、何度でもやり直せるだろ。俺はそれができないってだけだ」
拓海は同情しているのか、急に何も言わなくなった。同情なんてまっぴらごめんだと俺は思った。
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