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他にどんな意味があるっていうんだ。もうこいつと話したくもない。
しかし、どうやって出て行けばいいのか。幽体離脱みたいにするするっと出ていけるものなのか。
試してみたが、無理のようだ。
他の体に移ればいいのだろうか。それともこいつの言うとおり、未練だかなんだかを断ち切れば?
「慎平さん」
俺は無視を決め込んだ。拓海は何度も呼んでいたが、全て無視した。
「もしかして本当に出ていった?」
「あーもう。うるせえな」
「何だ。いたんですか」
がっかりしたように言うなよ。むかつく。本当に話したくない。
また何度か話しかけてきたけど、答えないでいると、「怒ったんですか?」と聞いてくる。それも無視していると、「すみません」と謝ってくる。
もう知るか。
拓海は家で勉強なんかしたりして。俺とは180度違う過ごし方にうんざりする。
拓海は途中でラインを確認した。久実子からだった。デートしようとか書いてある。
すると急に拓海が話しかけてくる。
「あの、久実子さんに会わない方がいいんですか?」
「会おうが会わなかろうがお前の勝手だろ」
いい加減にしてほしい。
「でも……」
見られるの嫌だしとかぶつぶつ言っていて、俺だって見たくないと思ったが、口に出さない。
しかし俺の考えていることがどこまでこいつにわかるのかと思う。さっき言おうとしたことじゃなくても届いてたみたいだから。
「せっかく会いたいって言ってるんだから、会ってやれよ」
拓海はまだぶつぶつ言っていたが、俺みたいに振られても知らないぞと言うと押し黙った。
「別に俺なんかいないと思えよ。普通にしてろよな」
町田のレストランで待ち合わせして食事をするようだ。レストランといっても洒落た居酒屋だ。俺も一度だけきたことがある。完全個室なのがいい。
年下だからと久実子の奢りだ。俺の時は半分割り勘だったけどな。やっぱり1年だからか。それとも独り暮らしだから気を遣ってるのか。
俺は女に奢らせるのもあれだったから別に気にしなかったけど。
食事が終わった後は部屋に誘われた。
頻繁に久実子の部屋に行けるなんて正直うらやましい。拓海は少し躊躇していた。俺のことを気にしていたのだろう。
「俺のことは気にすんなって言っただろ。そんなに嫌なら寝ててやるよ」
と言ったのははったりだが、拓海はしぶしぶと久実子についていった。いや、もちろん久実子の前でそんな顔はしない。
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