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途中で声が聞こえて気付いた。
「慎平さん?」
「ん?」
どれくらい時間が経ったのかわからない。
「もしかして本当に寝てたんですか?」
「途中からな」
「え?」
拓海がいちいち聞き返してくるのがうっとうしい。
「もうどうでもいいだろ。寝させろよ」
「そうじゃなくて、その……」
いちいち歯切れが悪い。
「今日は帰ることにしたんです。歩いても帰れますし」
「泊まっていかないのか?」
「いつもそれじゃあ久実子さんに悪いですし、それに」
拓海は言いにくそうにしている。一体何なんだ。
「なんか、慎平さんに悪い気がして」
「気にすんなって言っただろ」
むしろ気にされる方が嫌だ。いらつく。
「わかってます。でも、俺だってこんな状況で心底楽しめません」
どんだけ人がいいのか。それともただの馬鹿か。
「俺がそうやってお前の邪魔をして、別れさせるつもりだったらどうするんだ?」
「そうなんですか?」
だからそれを聞き返すなよ。馬鹿なのか。
「例えばの話だよ」
「だったら、とっくに、昨日の俺が寝ていた時とかに、久実子さんに嫌われる行動取ったりするんじゃないですか?」
そう言われてみたらそうだが。
「昨日は突然すぎてそんな気も起こらなかった。俺だって混乱してたし」
「じゃあ今はそういう気になったんですか?」
「さあ」
俺はもう受け答えするのも面倒になってきた。拓海はさあって何だとか言ってくるけど、俺だって知らない。
「はっきりしないんですね」
「お前には俺の複雑な気持ちがわからないんだよ」
「っていうかお前って呼ぶのやめてくださいって言ったんですけどね」
いちいちうるせえ奴だな。
拓海は何か考えているのか、それ以上話しかけてはこなかった。俺はもう眠くなってきていて、拓海が歩きながらまたうとうとしていた。
拓海は家でまたシャワーを浴び、寝ていたらしい。俺はその前に寝ちまったみたいで、拓海が寝たのも気付かなかった。
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