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朝になって拓海が俺を起こすように言った。
「大丈夫ですか? 頭起きてます?」
「起きてるよ」
言い方に腹が立ったが、俺は別のことを言った。
「しかし、別に俺なんか放っとけばいいのに」
「え?」
「いなくなった方がせいせいするんだろ。ほっときゃ一生起きてこないかも」
そう言うと、顔をしかめたように表情が動いた。
「怖いこと言わないでください」
何が怖いのかわからない。
「勝手にいなくなったり、死んだりしたら後味悪いじゃないですか」
「そういう理由ね。まあ、別にお前のせいなわけじゃないだろ。気にする必要ない」
もう正直放っておいてほしかった。
「馬鹿な事言わないでください!」
何を急に大きな声出してるんだと思う。
「何でそんな弱気なんですか?」
「さっさと出ていってほしいんだろ。それなのに俺のこと気にするなんてとんだお人よしだな」
そう言うと、拓海はちょっと声のトーンを下げた。
「そんなんじゃ……。そんなんじゃありません」
拓海は俺が口を挟む前に一気にまくしたてる。
「じゃあ、最初から慎平さんだって俺に話しかけなきゃよかったじゃないですか。勝手に俺の体でも乗っ取って、好きにしてればよかったでしょう」
「動かせねえんだよ」
「でも、黙ってた方が勝手に行動できますよね」
確かに拓海の言う通りではある。俺は自分で何がしたいのかわからなくなってきた。最初は久実子とのこと邪魔してやろうと思ったのに。もうどうでもいい気がする。
そう、結局のところ俺は、いい加減で、適当で、そして多分。
そんなに拓海のことが嫌いじゃない。
拓海はそんな俺にあきらめたみたいに、これ以上何も言わなかった。
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