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その日の深夜、突然久実子から電話があった。拓海は寝ぼけたまま電話に出た。
久実子の様子がおかしいと気付いた。
「拓海君、私どうしよう」
「どうかしたんですか? 久実子さん?」
「慎ちゃんが……」
「慎ちゃん?」
拓海には慎平のことだとわかっていたけれど、知らない振りをして聞き返す。
「事故にあったって」
「事故?」
拓海は何故か嫌な予感がしていた。
拓海は久実子をなだめ、明日一緒に見舞いに行こうと伝えた。
拓海はその間も慎平の名を何度も呼んでいたが、反応はなかった。
次の日、拓海は久実子と一緒に慎平が入院している病院に向かった。
見舞いに来ている両親に大学の友達と説明をし、久実子と二人で慎平の病室に入る。
病室では眠ったままの慎平が横たわっていた。
一週間ほど前に事故にあってから一度も目が覚めないという話だった。植物状態になる手前だというのだ。
久実子は泣きそうな顔をしていた。
「前の彼氏。って拓海君は知ってるよね?」
「えーと、その」
拓海は返答に困る。知っているは知っている。むしろ久実子よりも知っているのではないかと思う。でも、本当のことは言えない。
それに、拓海は嫌な予感が消えない。
「あの、久実子さん」
「私のせいかな。ねえ、拓海君」
久実子は震えていた。拓海は慰めの言葉を口にした。そんなわけないって。そういえば何で事故にあったのか拓海は慎平に聞いていなかったのに気付く。
「大丈夫ですよ。時機に目が覚めます。それよりちょっと、飲み物買ってきてくれませんか? 喉かわいちゃって」
「え?」
「お願いします」
こんな時に変だと思われたかもしれないが、他に久実子を追い出す方法を思いつかなかった。久実子は首をかしげながらも、病室を出ていった。
拓海は慎平の名を呼び続けた。
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