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久実子の家は町田にあった。大学まで駅からバスが出ているから、簡単に行けた。
俺の家は小田急線の各駅しか止まらない百合ヶ丘ってとこなので、若干通うのが面倒だった。原付で通うのもだるいのでいつも電車だ。二輪免許はそもそも持っていない。
実家から一時間もかからないのはいいけど、一人暮らしはさせてもらえない。
こいつは横浜線の八王子方面に乗り、一駅で降りた。淵野辺駅だ。ここからも大学までバスが出ている。俺は町田からいつもバスに乗る。
六畳一間のアパートで一人暮らしをしているようだ。正直うらやましい。女だって連れ込める。俺なんて久実子の家か、ラブホしか行けなかったのに。
寝る前にシャワー浴びたはずなのにもう一度浴びる。きれい好きなのか、潔癖か知らないが、俺なんてそのまま大学行くことも多かったのに。いや、数回しか泊まった覚えはないけど。
シャワーから出たらさっそく声をかけてみた。
「おーーーい」
そいつは顔をしかめたように見えた。実際は見えないが、顔がゆがんだ気がする。
「これ、まじで幻聴? 俺どうかしちゃったのか?」
いい加減いらいらする。
「幻聴じゃねえよ。いいからさっさと俺の話に付き合えよ」
「何も聞こえない。聞こえないんだー!」
俺は一番大きな声を出した。
「ふざけんな!」
だんだんむかついてきた。
「いい加減認めろよな。俺だって好きでお前の中にいるんじゃないんだよ。夢であってほしいと今でも思ってるよ。自分が死んだなんて認めたくない」
「死んだ?」
そこで初めて反応があった。
「多分バイクで事故った。それでお前の中にいる。そうとしか考えられない」
「え、何まさかそれって幽霊ってこと? うわっ。俺苦手なんだよ。そういう心霊的なこと」
急にびびり出す。俺の知ったことじゃない。
「とにかく、出ていき方がわからないんだ。とりあえずいさせろよ」
「そんなこと言われても」
そいつは困ったように髪をかきあげる。
「だいたいあんた誰だよ。久実子さんの元カレ?」
「そういうとこだけ聞いてんだな。俺だって認めたくないけどな。お前が現彼なんて」
「はあ」
その気のない態度にいらついた。
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