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俺はマジでふざけんなと思った。
そいつは「久実子さんに未練が?」と聞いてくる。
「知るかよ」
答えたくもない。そもそもそんなことで成仏できないなんて認めたくない。
「えーもしかしてあんた、見てたのか? あれ、あの、さっきの、つまり」
急にしどろもどろになった。馬鹿なのかと正直思った。
「思い出したくもない。気持ち悪い」
と俺は吐き捨てるように言う。
「気持ち悪い? 元カノじゃないのかよ」
「そういうんじゃねえよ。お前とやってんのなんか見て面白いわけないだろ。馬鹿」
そこで何故か押し黙った。
「マジで見られてた」
落ち込んだような態度。うっとうしい奴だと思った。
「そんなことはどうでもいいんだよ。お前拓海って言うんだろ?」
聞くとそいつは勝手に名乗り出す。
「桐生拓海。あんたはえーと」
俺が名乗る前に拓海は言った。
「慎ちゃん?」
何でこいつがそんなこと知ってるんだ?
「何でその呼び方」
「久実子さんがポロッと言ったことがあって。誰かと思ったけど、マジであんた?」
「昨日も名乗ったけど、相澤慎平。どうせ久実子が言い間違えたりしたんだろ」
だいたい何で俺の名を呼んだりするんだ。自分から別れたくせに。
「ほんとに元カレ」
と一人ぶつぶつ言っている。何なんだこいつは。
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