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「そういうわけだから、よろしく」
「よろしくしたくねえ」
と言い返されたので、「それはこっちのセリフだよ」と言ってやる。
拓海という奴はなんかむかつく。
「あんた同じ大学? 何年生?」
「2年だよ」
と答えると、驚いたように拓海は言う。
「え? 久実子さんより年下? 同じくらいかと」
「うるせえな。お前はどうなんだよ」
「1年」
と拓海が言って今度は俺が驚いた。俺より下じゃないか。どんだけ年下好きなんだ。まさか俺より若い子に乗り換えたくて、別れたのか?
そう考えると久実子があばずれにしか見えなくなってくる。
「マジかよ。どこで会った? あいつから言ってきたんだろ?」
「うん」
拓海が言うには、構内の求人スペースでアルバイトを探している時に声をかけられたという。
「そのバイトやめた方がいいわよ」とかなんとか。
それで久実子の知り合いの店で働くようになったとか。ただの勧誘じゃないかと思う。
「そこで惚れられたのか?」
「元々ちょっといいなと思ったから誘ったとか言ってたけど」
なんだそれ。
しかもそれが一ヶ月前。俺と被ってるじゃないか。
「二股かよ」
「違うよ。最初は付き合ってる人いるって言ってたんだって。うれしそうにあんたのこと話してた」
「はあ?」
そんなこと聞かされてもマジ困る。もう終わったことなのに。
「つうかあいつお前のことはなーんも教えてくれなかったのに、俺のことはべらべらしゃべったのかよ」
「そうじゃない。名前とかは何も。ただ優しいとか、ぶっきらぼうとか」
「あっそ」
そんなこと聞きたくなかった。
「途中で好きになっちゃったって言われて」
「『ごめん。彼氏とは別れるね』って」
のろけかよ。いい加減にしてほしい。
「のろけならよそでやれ」
「俺だって最初は、先輩なのにかわいい人だなって思っただけで。ただその、何度かバイト先に来てくれるうちに、なんていうか」
そんななれそめなんか聞きたくない。
「結局、あいつの方が積極的で、それに負けたんだろ」
もうそんなパターンは見飽きた。
「あんたも?」
俺のことはどうだっていいんだよ。俺は答えずに言った。
「いつまでもあんたあんた言うなよ」
「じゃあ、慎平さんって呼んでいい?」
「好きにしろ」
本当はどんな呼ばれ方も気に入らないが、とりあえずそう答えるしかなかった。
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