鳩時計

30/35
前へ
/142ページ
次へ
都市開発って・・・。 驚いて伊織さんへ視線を向ける。 「大丈夫だと言っただろう。」 そう言ってポンと大きな手が 俺の頭に乗った。 気づいてた。 知ってたんだ。 俺が脅されていて それでも伊織さんに 話さなかった事を・・。 伊織さんはすっと立ち上がる。 全員が固まる中 ツカツカと歩き 憮然とした表情のお父さんの横に立ち ポケットから何やら紙を出して ぽいっとテーブルの上に放った。 「残念ながら 今の法律で親子の縁を切る事は 出来ない。が 笹目と養子縁組をしたから 今後 俺が洲崎姓を名乗る事は無く よって 俺はもう洲崎には関わらない。 現時点では効力は無いが 万が一の際 使用出来るよう 相続放棄の書類も作成し 顧問弁護士が保管している。何かあった場合 それを使えばいい。」 ぐるっと座る人達を睨みつける。 「これで俺はもう跡取りなどでは無い。 お前らが 蔑み馬鹿にした柚が俺を変え 傲慢で形式に捉われた考え方では 何も新しい物には出会わないという事を 教えてくれた。馬鹿にされるべきはお前らだ。」 ふん。と鼻で笑い またツカツカと歩いて こちらに近づいてくる。 ほら。と手を差し出され おずおずと掴むと 立ち上がらされた。 「では。失礼。」 伊織さんはそう言って 俺の手を引きながら 座敷を出る。 後ろを振り返ると 沢木さんはべえ。と舌を出して ニッコリと笑った。
/142ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2221人が本棚に入れています
本棚に追加