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「は?」
「地下を全部見たけど、オフィスはこの部屋だけだったんだ。あとは、給湯室とトイレと更衣室と休憩スペースと……」
震えるような嵯峨の細い声が妙に不安を掻き立てる。落ち着け。落ち着け。ケイは必死に自分に言い聞かせていた。嵯峨が嵐山の共犯の可能性だってある。しかし、今それを嵯峨に指摘してもパニックになって否定してくるだけだろう。それが演技であっても演技でなくても、そこから先の話が進まないであろうことくらいは想像がつく。
「ほ、他の階のを使ったんだ。わざわざ携帯使わずに地下にいるって思わせるためにさ。とにかく、帰ろう。俺、一階に上がってから綾部さんの携帯にかけてみるよ。それでいいだろ?」
できるだけ明るい声で話しながら、机上の電話機を確認する。嵯峨を落ち着かせるためにああは言ったが、あの時内線は確かに地下からかかってきていた。電話機のランプを見間違えていたとは思えない。やはり三人はグルだったのだ。どうせここから嵐山がかけていたに違いない。そう思いながら、あるいは祈りながら薄暗い蛍光灯の明かりの中、受話器を取ってみた。が何の音もしない。古びた電話線を手繰っていくと、線は途中で切れていた。
「………………」
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