221人が本棚に入れています
本棚に追加
「……待…て」
かすれる声がした。
「待たねーよ。テメェはそこでもうしばらく喰われて反省してろ。俺は忙しいんだ」
「………父さん……、…俺が…悪かっ……」
そこまで何とか言った瞬間激しく咳込んでしまい、それでも必死に呼吸を整えて続けようとするアスクレピオスを少し驚いて見つめる。拘束を無言で解いて、床の上に下ろしてやってから、血と冷や汗でぐっしょり濡れた身体を大事そうに抱きしめてアポロンは温かい声で囁いた。
「ああ…それでいい。…痛かったな」
出血多量で血の気の引いた身体に、アポロンの体温が温かい。生まれて初めて抱きしめてもらった父親の大きな腕があまりに温かくて、心のこもった低い声が優しくて、…無性に腹が立った。
◇
アルテミスに訊かれたまま、俯いて黙っていたピラムがそっと顔をあげて呟いた。
「…どっちも選ばないよ。何しろこの俺の予言を無視した馬鹿兄貴たちだからね」
先程までと打って変わったその表情に、アルテミスが息をのむ。
最初のコメントを投稿しよう!