第十五話 -愛情-

10/16
前へ
/269ページ
次へ
◇  昔から、頭に血が上りやすいと師匠によく注意されてきた。  馬鹿が付くほど生真面目で、正直で、ただひたすらに真っすぐで。  頭に血がのぼると目の前が真っ赤になって、何も考えられないくらい暴れてしまう。気が付くと、相手が動かなくなっていることが何度もあった。  結局、カッとなりやすい自分の性格を理解してくれたのは師匠だけだった。  しかし、馬鹿が付くほど生真面目で、まっすぐな奴なら自分の他にもいた。  いつも一人でポツンと離れて難しそうな本ばかり読んでいて、絶対に誰とも話さない。周囲からは根暗と呼ばれてよく嫌がらせされていた。 『なぁ、その本、どうしたんだ?』  ある日、ドロドロに汚れた本を必死で拭っている姿を見かけたから、思い切って声をかけてみた。 『…………うるさい』  泣いていたのかもしれない。声が少し鼻にかかっていた。 『先生、呼ぶか?』  すると力いっぱい首を横に振ってごしごしと顔をぬぐってから、きつく本を握りしめて、彼は独り言のように吐き捨てた。 『…先生だけだ…俺のことわかってくれるの…ッ』  …性格は正反対だったが、お互い理解しあえる仲になるまでそう時間はかからなかった。
/269ページ

最初のコメントを投稿しよう!

221人が本棚に入れています
本棚に追加