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ベッドの脇で椅子に座るその背中は、やけに小さく見えた。
「クレス…。隣、座ってもいい?」
窓際で薄いカーテンが風に揺られて波を作っている。
「ああ…」
ヘラクレスの返事を待ってからケイが隣に座る。ベッドに寝ているアスクレピオスはまだ呼吸音がおかしい。あの後すぐにケリュケイオンで診療所に飛んで、アイムの助けを借りながらピラムと協力して必死に二人を手当てしたが、果たしてちゃんと応急処置ができていたかどうか。
「…リュコスは?」
ヘラクレスが短く訊く。
「意識は戻ってないけど、ピラムがついてるよ。…今は、二人きりにして欲しいって」
「…そうか」
「やっぱ双子だよな。なんだかんだ言ってもピラムは良い弟だと思うよ」
本人が聞いたら蕁麻疹を起こしそうなセリフを吐いたケイに、ヘラクレスは自嘲気味に笑って、アスクレピオスの方を見たまま語りだした。
「双子の弟…か。…俺にもいたぜ。もっとも、一度も兄と呼ばれたことはないが」
「マジか。ヘラクレスが双子だったなんて話、聞いたことなかった…」
その弟とやらはそんなに有名な人ではなかったのだろうか。ヘラクレスは軽く首を横に振って続けた。
「…俺と弟は双子として生まれたが、父親はそれぞれ別だった」
……またか。本当に神界あるあるなんだな。一瞬ケイは思ったが口には出さなかった。ヘラクレスが一人で続けた。
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