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アスクレピオスの物理世界側の人格であるナナミは、少なからず影響を受けているはずだから…と、ピラムは言っていたが。
「あ、ケイ起きた?」
何故か目が覚めると隣のベッドで寝ていたはずの嵯峨が起きていた。
「おま……ッ! 意識が戻ったのかッ?!」
思わず叫んでしまったケイに、病室に来ていた看護師が笑う。
「昨日の昼に、突然意識が戻ったんです。昨日は身内の方や会社の方なんかも来て大騒ぎだったのに、全然起きなかったから…」
二人部屋の狭い病室でそんなことが起きていたのなら普通は気が付いただろうが…。入院中だからと言ってあまり冥界に入りびたるのも考え物だ。昨日の昼と言えば、ちょうどアウトリュコスと一緒に冥王府に本を返却しに行っていた頃だ。あの時笑いながら話していた顔を思い出して、ケイの表情が沈む。もし一日前に戻れたら…ケイに彼を引き留めることはできるのだろうか。
「ケイ?」
嵯峨に訊かれて、慌てて顔をあげる。
「あ、ああ。ごめん。なんかちょっとまだ寝ぼけてて…。嵯峨はもう平気なのか?」
「うん…。なんか僕も長い夢でも見てたみたいでちょっとまだ寝ぼけてるというか、現実感がないけど、事故にあったことだけはなんとか覚えてたよ」
あはは…と、いつもの綺麗な顔で笑っている嵯峨に、必死で作り笑いを返すケイ。いくら心の中でこいつとアイムが別人と唱えても、普通に話すのはなかなかに難しい。
東寺と話すときはピラムとはまったく重ならないから不思議だが。
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