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「酔っぱらった大学生じゃあるまいし、何バカみたいなこと言ってんの」
冷めた声でやってきた青年と後ろにいる若い女性二人が今日この時間まで残業していた技術開発部の人間だ。
「東寺悪い。俺まだ仕事あるから先帰って」
パソコンの向こうから声を出すケイに毒舌家の東寺が冷たい声で返す。
「というか、他の部署ももう誰もいないよ。何無駄に頑張ってんのか知らないけど、ケイももう帰ったら? どうせ仕事なんて今帰っても夜中に帰っても大差ないんだから」
「珍しいよね。この時間に誰もいないなんて」
やわらかい声で言って微笑んでいるのが桃山ナナミ。この二人もケイの同期だ。
「二人も行く? 肝試し」
ニコニコと訊く嵯峨に冷たい声が重なった。
「パス」
「私も今日はもう眠いから帰りたいなぁ…」
東寺とナナミがそのままさっさと帰った後、残された技術開発部の新入社員、綾部ハルナが小さな声で申し訳なさそうに苦笑して言った。
「あ…じ、じゃあ…私は…ちょっとだけ…ご一緒してもいいですか?」
ハルナのその返答は、さっさと帰ってしまった同じ部署の先輩二人のフォローだったのか、それともあからさまに嬉しそうな嵐山に申し訳ないと思ったのか、または密かに彼女が好意を持っていた嵯峨からの誘いだったからなのか、ただ、ケイにはなんだかそれがとても『不安な』返答に思えた。
根拠はない。ただ、なんとなく、なんとなくだったが胸中の不安を掻き立てられるような。直後、とっさに声が出ていた。
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