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「綾部さん、無理しなくていいって。嵯峨も嵐山も、くだらないことに人を巻き込んでないでマジでさっさと帰れ」
彼にしては少しキツめに吐かれたケイの言葉にそれぞれ「はいはい」とか「お先に失礼しまーす」とかなんとかバラバラに言いながら出て行ったのが夜九時半ごろ。
それから一時間半ほど経って、ケイがそろそろ自分も帰ろうかと思い始めた時だった。
突然、卓上の電話が鳴った。
「………ッ?!」
静寂を破って響き渡る機械音。これがホラー映画なら受話器を取るとキーンという音が鳴るのではないかと思ってしまうような。
「……はい」
恐る恐る電話に出た。
『あ、ケイさんッ?! 良かったぁ~~…まだ残ってたんですね』
一瞬にして緊張が解け、体の全神経が緩んでいくのを感じる。
「お前かよ。ったく…なんなんだよ嵐山…お前帰ったんじゃなかったのかよ。つーか今どこからかけてんだ? これ」
『内線です。いっやぁ…実はあの後地下に行ってみたんですけど…ここって携帯の電波入らなくって』
「地下? あー…そういやそんな話してたなお前ら。つか、マジで行くか普通」
『えへへ。実は嵯峨さんと綾部さんとはぐれちゃって…。今探してるんですけど…』
「はぁ?! えへへじゃねぇよお前。まさか今までずっと探し回ってたのか?」
『ケイさん、探すの手伝ってくれません?』
「ふざけんな。そんなのもう二人ともとっくにお前が見つからねぇから諦めて帰ったに決まってるだろ。お前もさっさと帰れ。俺も帰るから。じゃあな」
『え? あ、ちょ…待ってくださいよッ! いや、来てくれないと困るんですって』
「困る? ……ああ。嵯峨がなんか企んでんのか。もうそういうのいいって。どうせ今横に嵯峨いるんだろ? おい嵐山。ちょっと嵯峨と電話代われ」
『だから嵯峨さん見つからないんですって…。来てくださいよぉ…』
「ったく…あーもうわかったよッ! そこ行きゃいいんだろ」
つくづく自分も付き合いのいい奴だと実感してしまう瞬間である。
これが東寺なら確実に見捨てて帰っていただろう。
実際…この時に帰っていれば彼の人生は百八十度変わっていたに違いない。
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