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第一話 -悪霊-
鼻を突くような異臭だった。
窓のない地下の一室。深夜のビルで悲鳴とも呻き声ともつかない声を漏らしながら、尻もちをついたまま必死に後ずさる。床についた手が冷たいものでズルっと滑るが、手のひらについた液状のものを確認する勇気はない。
今まで知らなかったがどうやら人間というものは本当に恐怖を感じると叫び声は上がらないものらしい。喉も唇も、顔面の筋肉すべてが痙攣したようにひきつって、目に流れない涙がたまって滲む。
目の前に転がっているのは先程まで一緒に働いていた同僚の上半身。
さらにその先には、見知らぬ若い女の上半身が無表情に目を光らせてこちらを睨んでいる。
一体なぜこんなことになったのか。
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