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側まで行くと、あたしの姿に気づいた四ノ宮くんが、
「あ、おはよう。神谷さん」
あたしを見上げて挨拶をしてくれる。その笑顔が、やっぱり弱々しい。
「おはよう。四ノ宮くん。……ねえ、今日もしんどい?」
挨拶を返した後、ひそひそと尋ねると、四ノ宮くんは、
「すごい。神谷さんはお見通しやね。せっかく神谷さんが昨日おまじないをしてくれたのに、風邪がぶりかえしたみたい」
と、あたしと同じように小さな声で答えた。
「無理して学校に来たの?」
体調が悪いのなら、欠席をすればよかったのにと思って尋ねると、
「お母さんに心配かけたくないし」
と、親孝行な答えが返ってくる。
「あたし、もう一回おまじないしてあげる」
あたしは四ノ宮くんに耳打ちすると、四ノ宮くんの体に手をかざして、
「『かけまくもかしこき いざなぎのおほかみ つくしのひむかのたちばなのをどのあはぎはらに みそぎはらへたまひしときに なりませるはらへどのおほかみたち もろもろのまがごとつみけがれ あらむをば はらへたまひきよめたまへと まをすことをきこしめせと かしこみかしこみもまをす』」
と小声で唱えた。祝詞が終わると、黒いモヤモヤがふっと掻き消える。
「あ、体が楽になった。本当にすごいね、神谷さんのおまじない」
四ノ宮くんは感心したように言うと、キラキラする笑顔をあたしに向けた。
(ま、まぶしい……!)
好きな人が、あたしにステキな笑顔を見せてくれたことが嬉しくて、心臓がドキドキ音を立てる。
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