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「神谷さん!」
ふいに、オープンテラスの外から名前を呼ばれ、パッと振り向くと、四ノ宮くんがあたしに手を振っていた。今日の四ノ宮くんはデニムのオーバーオールをはいていて、斜めにショルダーバッグを下げている。可愛い格好だけど、四ノ宮くんによく似合っている。
「四ノ宮くん!」
あたしも四ノ宮くんに手を振り返した。
「ああ、友達来はったんや。あの子が結の……」
颯手くんが四ノ宮くんを見て柔らかく目を細めた後、ちらりとパパに視線を向けた。
「おい。友達って……男?」
パパが眉間に皴を寄せて、ママを見上げる。ママはにこっと笑うと、頷いた。
「へえ、あの子が結ちゃんの想い人なのね。可愛い子ね。優しそう」
杏奈ちゃんがあたしと四ノ宮くんの顔を見比べた後、少し膝をかがめ、あたしの耳元で、
「お似合いよ。もしかして、今日、告白するの?」
と囁いた。
「こ、こくはく!?し、しない!……まだ!」
杏奈ちゃん、急になんてことを言い出すんだろう!ていうか、なんであたしが四ノ宮くんのことを好きだって知ってるんだろう!?
あたしは顔が熱くなってしまって、慌てて椅子から立ち上がると、
「じゃ、じゃあ、行って来ます!」
と言って、急いでリュックを背中に背負った。
「ちょっと待て、結!男だなんて聞いてないぞ!」
ガタッとパパが椅子を立ったけれど、颯手くんがすかさず肩を押して座らせる。
「まあまあ、誉。落ち着きよし」
含み笑いの声で颯手くんがそう言うと、ママもパパを見て、
「そうですよ、誉さん。別に、お嫁に行くわけじゃないんですから」
とくすくす笑った。
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