1.陰陽師の娘と神様の御使い

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1.陰陽師の娘と神様の御使い

 ぽかぽかと暖かい春の日差しが気持ちいい。  小学校の校門を出て信号を渡ると、あたし――神谷結(かみやゆい)は緩やかな坂道を駆け上がった。走るのは好き。背中でランドセルが揺れる。  道の途中には鳥居が立っていて、それを超えると、目の前に桜の小径が現れた。今はちょうど桜の花が満開で、小川沿いの遊歩道を覆うように咲いている。  ここは『哲学の道』。よく分からないけど、昔、有名な哲学者っていう人が散歩していたから、そんな名前なんだって。  小さな橋を渡ると、氏神様の神社がある。名前は大豊神社。これもまたよく分からないけど、すっごく昔のなんとか天皇が病気になった時に「治りますように」ってお願いするために建てた神社なんだって。  手水舎で手と口を清めた後、もうひとつある鳥居をくぐる。境内はそれほど広くなくて、小さな本殿と、もっと小さな末社が4つある。  あたしは一対の狛犬が守る本殿の前の階段を上ると、ポケットから5円玉を取り出して、賽銭箱にそっと入れた。2回お辞儀をして、2回手を叩いて、お願い事をして、最後にもう1回お辞儀をする。  今度は右側に移動し、同じように、狛狐さんのいる美田稲荷社に手を合わせ、さらに移動して狛ねずみさんのいる大国社に手を合わせた。今度は、もう一度本殿の前を通って左側に移動し、狛鳶さんのいる愛宕社と、狛猿さんのいる日吉社に手を合わせた。  そして再び本殿の前に戻ると、大きな声で、 「みんな、遊びに来たよ~!」 と叫んだ。すると――。
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