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前ページで頂いた【St.Evilnight Saga ~Sad Whisper~】への返譚です。
⏳ ⏳ ⏳
【St.Evilnight Saga ~ 追想慕 ~】
数日前、私に噛みつかれてヴァンパイアになったポラード神父は、あの雷鳴轟く夜の後片付けの為、礼拝堂の中を渋々掃除していた。
私はそれを信徒席に座って眺めながら、過去を思い出す。
ヴァンパイアとして蘇ってから、私を罠に嵌めた大人達に復讐した。
その中には神父もいたが、どうしても許せなくて殺してしまった。
それからは教団に追われ、逃亡生活をずっと続けているけれど……。
いつも餌にする人間は、死にかけの人か私の命を狙った不届き者。
聖職者という名の清廉の塊のような皮を被った、思いやりを持たぬ悪魔だ。
魔物は情けをかけず退治るべしと私に刃を向けるから、正当防衛のように容赦なく血を啜ってやった。
私の命を狙ったのだ。そのくらいの仕返しは甘受すべきだわ。
でも今回は、いつもとちょっと趣が違う……。
この村に来る前の戦闘で、下僕を失ってしまった淋しさもあったし、やっぱり人恋しかったこともある。
孤独に生きるには、不老不死のヴァンパイアには悠久過ぎるのだ。
人としての死を経験してから、もう長いこと生きているのに、私の心は未だあの頃のまま。
―― 大人になりきれないわね。寂しいだなんて。
いつも私を真っ直ぐに見てくれるポラード神父と接していると、どうしても人の温もりが恋しくなる。
人の中で生活したい。
人並みの幸せが欲しい。
だって、今は魔物でも元は人間なんだもの。
だからこそあの時、冥福を祈ってくれたポラード神父に惹かれた。
私を魔物としてではなく、人として見てくれたような気がして、心がときめいてしまったのだ。
いや、自覚したのがその時だっただけなのかもしれない。
心臓を杭で打たれたが、ハートまでも射抜かれていたのだ。
―― メイ。私は罪作りばかりしているわ。
貴方のような人を二度と作りたくないと思っていたのに、自分の欲望に負けて噛みついてしまった。
貴方と過ごしたあの優しくて幸せな日々が恋しくて、再び望んでしまった。
また、不幸を繰り返してしまうかしら?
私が人並みの幸せを望んでしまったが故に、惨劇を招いて……。
人の夢は儚い。壊れる時も奪われる時も、それは静かに突然にやってきて一瞬で失うのだ。
でも、魔物と正面から渡り合えるくらいの強い人と一緒なら……?
人間の血を飲むのには、まだ抵抗があるポラード神父だが、どうやらロクデナシが幸いしたのか灰になろうとする気配はない。むしろ、これで教団から解放されて働かなくていいと喜んでいる節がある。
それもちょっと、どうなのかしら。ポジティブなのは悪いことじゃないけれど。
―― まさかポラード神父、私の心を見抜いてるんじゃ……?
私を罠に嵌めてヴァンパイアだという証拠を突きつけて来た神父だ。
時にバカなのかしら? と思うような素振りまでして私を窮地に追い込み、一度は私を退治た人。普段のロクデナシは仮の姿で、実際はキレ者かもしれない。
一瞬そんな考えが脳裏を過ったが、すぐに ” ないわね ” と否定する。
聖職者は恋愛も結婚も御法度。このロクデナシの様子を見ていると、単なる戦闘バカで女心なんて全く理解してない感じだし。
その点メイは女心、理解してくれてたわね。
働き者で誰よりも優しくて、包容力のある人。
でも気が優しすぎて、魔物としては弱かった人。
私は掃除をしているポラード神父に目を向けた。
彼は強い。教団のエリートといわれる魔物達との戦いを専門にしている戦闘集団の一人というだけあって、その戦闘技術もセンスもピカイチだ。
彼なら、教団から差し向けられる刺客とも難なく戦えるだろう。そういう点では、理想の男性だ。
でも心配はある。
ポラード神父が人の血を飲むことを拒否し続ける可能性だ。
それではヴァンパイアの身体は持たない。今はいいかもしれないけれど、どこかでガタが来てしまう。そうなる前に、血液を口にしてくれればいいのだけれど。
なるべくガタが来るのを遅くするために、滋養強壮の効能がある食べ物を食べさせておこう。
―― メイのように、ポラード神父を失いたくはないから。
私がこの先、人並みの幸せを望むのを、きっと貴方は笑って許してくれるだろう。
もしかしたら、もっと早く求めれば良かったのにと言ってくれるかもしれない。
―― ねぇメイ。許してね。私が前を向いて生きて行くことを。
遠くで、彼が笑う懐かしい声が聞こえた気がした。
それにしても、下僕は私のことをどう思っているのかしら……?
肝心な所が不明だ。
だが、それを自分から確かめる勇気はない。
まぁ、毎日顔を突き合わせていても嫌がってはいないようだから、このまま様子見よね。
肩を竦めると、再びメイの苦笑いしたような声が耳の奥で聞こえた。
「素直になればいいのに」
それが出来たら苦労はしない。
だって、ポラード神父のことを私は……
そうして今日も素直になれない私はまた、彼を「下僕」と呼んで高飛車に振る舞うのだ。
この乙女心を隠すために。
fin.
高杜観覧感想文:
午前零時ぴったりに、Happybirthdayの言葉と共に~Sad Whisper~をプレゼントして頂きました。
驚きと嬉しさで、心臓に矢が打ち込まれましたとも!!(ケラケラッ)
ヴァンパイア凪咲のみならず、ヒューマン(筆者)凪咲の心まで容赦なく射抜くポラードさん、ほんと素敵です。
続編を作るにあたり、彼女の死因については打ち合わせをしておりましたが、過去の恋愛歴に関しては何もなく。
そうか。こんな過去があったから、強いポラード神父を選んだのか。いやでも、なかなか胸を締め付けられちゃったので、ヴァンパイア凪咲、是非とも幸せに。
というか、身体にリボン巻いてデコレーションして背中押してあげるから、神父様の腕の中に大人しく収まってらっしゃい。と、真夜中にヴァンパイア凪咲に言ったところ、猛反発くらいました。ほんと、素直じゃありません。
さて、本当に続編、どうなるんでしょうか……?
ちょっと心配です。(ちょっとは素直になって頂戴ね)
ポラードさん、キュンとする囁きを、ありがとうございました!!
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コラボ作品【St.Evilnight Saga ~血華繚乱~】
※本編は、ポラードさんのところで公開しております。
作品リスト「コラボ作品関連紹介」https://estar.jp/collections/2248187からお飛びください。豪華スター特典もございます。
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