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びたみん 様作 鈴香 華菜
華菜のイラストを、びたみん 様に描いて頂きました。https://estar.jp/pictures/25756358
シーントーク:(出演:牧・ 華菜・ 小雪)
華菜「牧。久し振りに離宮へ遊びに行かない? 今頃はきっと、クリスマスイルミネーションで華やかだと思うの」
王室にやって来た華菜が、書類に埋もれてイライラしている牧にそう声をかけた。
いつもの光景と言えばそれまでだが、今日は少々、牧の虫の居所がいつもよりも悪い。様子を窺っていた政務官達が、内心でハラハラしているのが手に取るように分かった。
牧「華菜。俺は暫く忙しい。行きたいなら一人で行って来い。離宮には連絡しておくから」
つっけんどんな言い方をして、手元の書類に優雅な手つきでサインを入れると、ドンッと重たい音を立てて決済印を押した。
それがまた、場の空気を凍り付かせる。
華菜「少しくらい、休息取った方が良いわよ牧。眉間に皺が寄ってるわ」
牧「問題しか上がってこないんだ、当然だろう。華菜、そんなに暇なら仕事振るからやってくれ」
華菜「牧の仕事が私に分かるわけないじゃない。いいわよもぅ、一人でお散歩してくるから」
口元を尖らせて、少々物悲しそうな目を向けると、華菜が王室を後にする。
政務官達の牧を責めるような視線が、一斉に彼に刺さった。
牧「……忙しいんだから、仕方ないだろう」
居心地が悪そうにそう言い訳をすると、傍でパソコンのキーボードを叩きながらやりとりを聞いていた女官の小雪が、軽く息をつく。
小雪「王、忙しいという字は、心を亡くすと書くんですよ。王妃様のスケジュールを見ると、離宮へ行かれるのはクリスマスイブでしょうから、一緒に向かえるよう調整致します。……少し、息抜きして来て下さい」
牧「そんな調整できるような状況か?今」
小雪「厳しくはありますが、出来なくはありませんよ。それに、王室内でこれ以上吹雪かれても困ります。皆様、凍死しそうな雰囲気ですよ」
牧「……凍死?」
小雪の目が、予算案を作るのに3日間徹夜中のりなに向く。
書類やファイルがあちらこちらに堆く積まれ、標高を競っていた。彼がいるであろう中心から、イライライライラという負の念が発せられ、室内に漏れて侵食していく。
そして時々りな宛にかかってくる電話対応の声が、氷柱を研削しさらに鋭利になるよう冷え冷えとした旋律を奏で、室内は氷結。
そこに牧の重苦しい空気が混ざると、氷針の筵に立たされているような気分になる。
牧はその幻影を眺める政務官達の顔色を見渡すと、溜息を一つ吐いた。
牧「小雪。悪いがスケジュール調整を頼む。それと……」
その後牧の口から出た頼みごとに、小雪は微笑んで引き受けた。
クリスマスイブ。
離宮に一人やって来た華菜は、色とりどりの花を眺めながらガーデンを散策していた。
思い出すのは、亡き母との思い出。
ガーデニングが趣味だった母は、時間を見つけてはこの離宮へ足しげく通い、ガーデンに新しい苗を植えては咲く花を愛でていた。
ポインセチアやガーデンシクラメンなど、季節の花が並ぶそこに、クリスマスイルミネーションで作られた動物達も飾り付けられている。きっと、夜は光る森の楽園のような風景が浮かび上がって、目を楽しませてくれるだろう。
庭の奥、温室の裏手には、背の低い生垣に囲まれたプライベート空間のような場所がある。
離宮は一般開放もしている為、安全確保の面からガーデンを好き勝手に走り回らせてはもらえない。子供の頃、外で遊びたい盛りの華菜の為に、亡き父が作ってくれた小さな庭があった。
青々と茂る芝生の上を歩いていくと、持ち手のロープに蔦を這わせたブランコが1台、そこにポツンと佇んでいる。
今はもう、誰も乗る者のないブランコは、それでも綺麗に掃除と整備がなされていた。
華菜「ちょっと、疲れたわね……」
ふぅと息をついて、ブランコに腰かける。
キィーと金属が擦れる甲高い音が空に吸い込まれた。
見上げると、優しい橙色がグラデーションをつけて頭上を染めている。
その大海原を、2羽のカラスが鳴きながら自由気ままに飛んでいた。
華菜「あの子達も、今から家に帰るのかしら」
ふふっと笑いながら、キィーと甲高い音を鳴らして、軽くブランコを揺らす。冷たい風が頬を撫でる度に、金属音は寂しい音を響かせた。
華菜「番になったカラスは、一生同じ相手と添い遂げる。仲が良くて常に一緒にいるって言うけど、ホントなのね。妻の気遣いよりも仕事優先の誰かさんと大違い」
牧「一生同じ相手と添い遂げるのはそうらしいが、カラスは繁殖期以外は別行動らしいぞ、華菜」
華菜「そうやって、すぐ夢を壊す夫も考えものだわ」
振り向けば、肩をすくめた牧がこちらへ歩いて来る。
昨日までは忙しいと言って離宮へ来る予定はなかったはず。だから諦めて一人で離宮へ来たのに、何も言わないなんて本当に自分勝手だと華菜は内心で思った。
牧「悪かったな。夢ばかり見ていては、国など治められないから仕方ないだろう」
華菜の後ろに立った牧もまた、空を見上げる。
華菜「……仕事、忙しいんじゃなかったの?」
牧「忙しいが、王室内が凍り付くのを阻止するために、小雪が息抜きしろとばかりにスケジュール調整したおかげで時間が出来たんだ。ここで夕食をのんびり摂るくらいの時間はあるぞ」
華菜「そう。さすが小雪ちゃんね」
良く出来た戸籍外養子の娘。父親の香村大臣に似て調整能力に長けている上、人の様子をよく見ていて機転が利くから、気を使わせてしまう。
牧「まぁそのなんだ。この間は悪かった」
華菜「絶対そう思ってないでしょ、牧」
牧「そんなことはないさ」
牧はコートのポケットに手を入れると、小さな箱を取り出し、華菜に手渡す。
牧「クリスマスプレゼントだ」
華菜「私をモノで釣ろうって言うの?」
牧「いらないなら、返品しよう」
渡された箱を開けると、中には色とりどりの天然石が埋め込まれたバレッタが一つ。いつだったか雑誌を見ながら、綺麗だわとうっとり眺めていたものだった。
華菜「牧、これ……」
牧「お前、いつだったか欲しそうな顔してただろ」
華菜「記憶力だけはいいのね」
牧「……つけないのか?」
華菜「ここには鏡も、髪を結ってくれる女官もいないもの」
はあぁと溜息を一つ零すと、牧が「貸せ」と箱からバレッタを取り上げて、華菜の横髪を後ろに流して結い、バレッタで留める。
牧「機嫌が直ったなら、前に花が咲くかどうか気にしていたナントカって植物、一緒に見に行かせてくれないか? ほら、お義母さんが大事にしていた鉢植え」
そんな些細なことまで覚えているとは思わなかったと、華菜は目を瞬いてから微笑み、ブランコから立ち上がった。
牧の腕を両手で掴んで、温室へと誘う。
温室の扉を開けて、華菜は羽が生えたように軽い足取りで先を駆けていく。
華菜「牧、こっちよ」
牧「華菜、慌てると転ぶぞ。鉢植えは逃げないだろう」
「全く、いつになったら落ち着いてくれるのやら」と、先を行く華菜を見て牧が肩をすくめながら歩く。
華菜は「早く早く」と言わんばかりに、曲がり角で立ち止まっては振り返った。
華菜「シフォン・ベゴニアよ。夏に弱くて咲かせるのが難しいのが難点なのよね」
まるで王冠を頂くように、透明なアクリル板で側面を囲まれた丸い台の上に置かれたその鉢植えは、見事な橙色の花を咲かせていた。
八重咲のその花は、中心は濃い橙色をしているが、末端との間に純白を挟んで、裾はピンク色でお色直しをしている。ふわりとしたドレスのスカートような見た目から、名付けられた品種だ。
牧「綺麗だな」
牧の表情が和んだ。口元を綻ばせた顔を見た華菜は、ホッと心が落ち着き肩の力が抜けたのが分かった。
そのくらい、ここ最近の牧は眉間に皺を寄せていて、威厳ではなく威圧感を漂わせていたのだ。夫のことを分かって慣れているつもりでも、どこか緊張していたのかもしれない。
華菜「母の誕生日に、クアラベートの王妃様から頂いたのよ。二人ともガーデニングが趣味だったから」
懐かしむように、華菜は目元を和ませる。
このガーデンは、たくさんの思い出が詰まった庭なのだ。
ぐうぅと華菜の腹の虫が鳴った。
それを聞いて、牧は腕時計に目を向ける。
牧「もう7時半か。華菜、ここの厨房に準備させているから、夕食にしよう」
華菜「それも小雪ちゃんが手配したのかしら?」
牧「あぁ。あの子は有能だから」
華菜「娘に頼りきりじゃ、養い親の面目が立たないわね」
牧「違いないな。帰りに何か、土産を買って帰ろう」
そう言って温室を出た二人の前には、柔らかな光で出来た森が広がっていた。
光輝くリスやシカ、クマや小鳥などが、夜の庭で楽しそうに過ごしている。
華菜「来年は、みんなで来ましょ」
牧「どうだかな。毎年この時期は、りなが鬼の形相で仕事しているから」
華菜「もぅ。予定として組んでおいて欲しいって言ってるのよ、牧」
察しの悪い夫に、華菜は肩をすくめながらも幸せを噛みしめるのだった。
Fin.
高杜観覧感想文:
頂いたのは去年の冬。
独り占め期間長くてすみません……。
さて、年齢にそぐわぬ言動と、国民から愛されるキャラクターでおなじみ。あの堅物常識人な牧さんが惚れて(本人認めてないけど)結婚した華菜ママです。
びたみん社長から、女臭くなりすぎて……という全く無問題な心配とともに頂いたのですが、牧パパ射止めた人ですもん。美人で可愛らしくて守ってやらなきゃ駄目だろと、このお姿見たら思うでしょ!!
さすが社長、私のハートまでズキュンされました♡
牧さんに渡さず私が囲いたい……(こらっ)
生粋のお姫様な彼女ですが、様々な苦労や悲しみを乗り越えた人でもあります。王族たるもの、それを顔にも言葉にも出してはならないという亡き父の教えを忠実に守って、笑顔を絶やさぬところは立派な人だなぁと思うのです。
えぇ、普段の言動を見てると全くそうは思えないんですが。
そんな華菜ママが初ビジュアル化されて、嬉しい限りです。
びたみん社長、素敵な華菜ママを、ありがとうございました!!
(2021.5.29)
頂いたのは、2020年12月吉日です(平身低頭)
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