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静繧 憂 様作 宮木架名・りな
クリスマスプレゼントにと、架名とりなのイラストを、静繧 憂 様から頂きました。
(現物見開き写真立て(取り出せなかった)で頂いたので、写メになります。光が反射して綺麗に撮れなかったのでお許しを)静繧 憂 様 https://estar.jp/users/78004379
シーントーク:(出演:牧・華菜・未沙・架名・りな・ルスカフォード大統領(サメリア国))
窓から見える空が茜色に染まり、夜の気配近づく王室内で、国王夫妻が頭を悩ませながら溜息を洩らした。
牧「困ったな」
華菜「困ったわね」
牧「お前、本気でそう思ってないだろう」
華菜「思ってるわよ。今回ばかりは拒否するわけにいかないもの」
とある国の王家から、見合い写真を送って欲しいと頼まれた。
対象者は、戸籍外養子の宮木架名、りなの両名。
才能に溢れ、将来有望で見目麗しい。そんな噂を聞きつけたらしく、外交ルートを通じて依頼が来た。
正確には、親交深い国であるサメリアのルスカフォード大統領からの依頼で、だ。
当初、写真を送るだけならまぁいいか、と軽く考えていた夫婦は、当人達から否を突きつけられて、困り果てていた。
牧「まぁ、架名の言うことにも一理ある。戸籍外養子とはいえ、一応は王家の人間の写真を、おいそれと他国に渡すのは如何なものか、と言われれば、そうかもしれないが……」
写真を加工してどう使われるか分かったものではない、という懸念は確かにあるだろう。彼らの過去を思えば、慎重にならざるを得ないというのも分からなくはない。だから架名の指摘は間違ってはいない。が、しかし。
牧「何となく、その懸念だけで架名達が拒否してるとは思えないんだよな」
華菜「そうねぇ。りなちゃんがそれを指摘したのなら、結婚したくない!の言い訳とも取れるのだけど……」
当のりなは、兄の傍らで黙って牧に冷たい視線を寄越すにとどまった。
氷柱で突き刺すが如く冷たい舌鋒も、いつもなら一つや二つ飛んで来そうなものなのに、この件に関しては何故か一言も発しはしなかった。
その反応もまた、違和感を感じさせるのだ。
牧「とりあえず、写真だけは用意しておこう。渡すかどうかは別として、慌てて作るわけにもいかないしな」
華菜「そうね、そうしましょう」
そう結論を出し、写真撮影に応じるよう伝えれば、これまた何かと理由をつけて、拒否された。いや、正確には逃げられたと表現するのが正しい。
ここまで来るといよいよ怪しかったが、ルスカフォード大統領と約束した日にちまで間もない。
何とかして写真を取らなければと隠しカメラまで用意して撮影したが、どういうわけか顔が綺麗に写っていないものばかりが撮れた。
さすが、優秀なボディーガード。どうやらその類の機器を敏感に感知出来る能力までも身に着けているらしい。
打つ手がなくなってきた国王夫妻は、こうして夕暮れ時の王室で、二人揃って頭を悩ませ溜息を吐いているのだった。
コンコンコンとノック音が聞こえて、外から未沙の声で、夕食の準備が整ったことを知らされる。
牧は、丁度良いと未沙に中に入るよう扉の向こうへ声をかけた。
牧「未沙、ちょっと聞きたいんだが……」
そこまで言うと、未沙は小首を傾げて目を瞬かせてから、合点がいったように微笑んだ。
未沙「もしかして、架名とりなのお見合い写真のこと?」
察しが良い。
夫婦は娘が何か聞いているのかもしれないと、アイコンタクトを取った。
華菜「未沙、何か架名ちゃん達から聞いてたりするの?」
問えば、未沙が困った顔をして笑う。
未沙「聞いた、というよりも、原因に心当たりがあると言った方がいいかしら」
原因? と、牧も華菜も顔を見合わせる。
未沙「昔、首脳会議をここで行った時に、親善パーティを開いたでしょう?
その時に、その王女様がお見えになっていて……」
架名達と楽しく参加していた所に、その王女はやってきた。
そして未沙にこう言ったのだ。
「それは、あなたのペットなの?」と。
問われた未沙は、自分の足元を見てみたが、どこにも動物はいない。
何のことを問われているのか分からない顔をした未沙に、その王女は続けた。
「あなたの傍に控えている、そこの男二人のことよ」と。
未沙は答えた。
「いいえ、二人は私のボディガードであり、大切な家族です」
すると、王女は言ったのだ。
「やっぱりペットじゃない。使用人なら、主人と同じ場所で食事をするなんて無礼にも程があるわ。いくら家族のように愛着があるとはいえ、きちんと躾なくてはいけないわよ、お優しい姫君。でないと、あなたが恥をかくわ」
そんな、気分の良くないやり取りがあった。
未沙はその後二人に、「気にすることはないわ。価値観の違いよ。二人は私の大切な家族だもの」とフォローを入れたが、そのこともあって二人は、外交の絡む場での自分達の行動には、一層使用人らしい行動を取るようになった。
未沙にはそれが寂しく思えたが、仕方ないと今まで我慢してきたのだ。
だから今回の見合い写真の話を聞いて、二人が嫌がるのも無理はないと思ったのだった。
華菜「そんなことがあったのね」
未沙「えぇ。だから父様、母様も、今回のこのお話、何とかお断り出来ないかしら。私の名前を出して下さって構わないから」
その時、再び扉をノックする音が聞こえた。
外から、当の架名とりなの声がする。
牧は、「二人とも入りなさい」と扉に向かって声をかけた。
入ってきた二人が、罰の悪そうな顔をしている。きっと、先程の未沙の言葉が聞こえたのだろう。
牧「二人とも、未沙から大体の事情は聞いた。そうならそうと、何故言わない? 理由を言ってくれれば、こちらも考えたものを」
架名「……今回は外交が絡みます。だから、個人の我儘を通すわけにはいかないと思いまして」
逃げるのはワガママを通りこして、いっそ迷惑極まりないのだが、と牧も華菜も思ったが、そこは指摘せずに横に置いておく。
りな「それに、そのお話を持って来たのはサメリアの大統領。簡単にお断り出来る話ではないでしょう?」
それが分かってて、黙って逃げ回ってたのは誰だ。人を悩ませるようなことをして、と心の中に文句が渦巻いたが、それも一旦飲み込む。
架名「ただ、未沙姫を矢面に立たせるくらいなら、俺達が火の粉を被った方がマシです。姫の名を、どうか使わないで下さい」
本当に、この子達の弱点は未沙だなと、牧も華菜も思った。
牧は溜息を一つついて、肩を竦める。
牧「分かった。俺も自分の大切な養い子を、そんな考えの王女のところへ差し出したくはないから、少し策を練ろう。とりあえず写真は用意しなくてはならないから、架名、りな、明日、制服で撮影に応じなさい」
架名「はい」
りな「分かりました」
そうして正式な軍服を着て撮影に臨んだ二人の写真は現像され、数日後、立派な装丁を施されて牧の手元に届いた。
牧「二人揃って、見合い写真だということを忘れてないか? この表情」
華菜「そうね。架名ちゃんは何だか挑戦的な顔をしているし、りなちゃんに至っては……不機嫌そうな顔だけど、いつも通りと言えばいつも通りの顔かしら。それで牧? どんな策を巡らせるつもりなの?」
牧「そうだな。ありのままを伝えようと思う」
そう言って、牧はニヤリと笑った。
数か月後、サメリアの大統領がふらりと遊びに来た。
架名もりなも、結局あの件はどうなったのかと気を揉んでいた頃の訪問だ。
当然、大人達もそのことに気が付いていて、未沙と架名とりなをティーサロンへ呼び出した。
大統領「まぁ、とりあえず座りなさい。一緒に茶でも飲もう」
そう言って席を勧める大統領の言葉を判断しかねていると、牧が二人に向けて頷く。二人は渋々席に着いた。
「ほら、喉が渇いただろう。気兼ねをする必要はない。一口飲むと良い」と促されて、これまた架名もりなも手を付けようとしないので、華菜が笑って頷いた。
複雑そうな顔をして、二人がティーカップに口を付けた瞬間、大統領が口を開く。
大統領「それにしても、架名もよく決断した。あの王女は、キューピッドになってくれたようだな。おめでとう、プリンセス未沙、架名」
全く心当たりのない祝辞に、架名はカチンと固まり、りなは隣で盛大に噎せた。
未沙「りな、ちょっと大丈夫?」
未沙が慌てて席を立ち、りなの背をさする。
架名はと言えば、フリーズから立ち直り、ティーカップをソーサーへ戻すと神妙な顔をした。
架名「りな、悪い。俺、耳がおかしくなったようだから、医務室に行ってくるわ。ここ、頼めるか?」
りな「兄さ……ごほっ。悪いのは耳だけじゃない、げほっ、と思いますが」
架名「お前、どさくさ紛れに兄を馬鹿にするなよな」
架名の抗議をりなはそよ風のように聞き流し、言葉を続ける。
りな「この状況で、ごほっ未沙姫を一人にするのは、げほっごほっ、良くないと、ごほっ、僕は思います」
架名「……酷い弟だな。正論を突きつけるなんて」
りな「兄を想っての助言です」
誤飲から回復したりなが、未沙に礼を言って姿勢を正すと、牧に目を向ける。
その視線を受け止めた牧は、ニヤリと笑って答えた。
牧「言っただろ? 俺の大切な養い子を、そんな考えの王女のところへ差し出したくはない、と」
りな「それで、何でそんな話になるんです? 未沙姫が矢面に立つような状況にはしないで欲しいとお願いしたはずですが?」
牧「未沙は逆の願いを口にしたぞ? だから俺は、両方の願いを叶えたつもりなんだが? 自分達に火の粉が降り注ぐのは構わないんだったよな?」
屁理屈だ。
架名もりなも、据わった目を牧に向ける。
架名「お嫁入り前の姫の評判に傷がついたらどうするんですか。こんな嘘まででっち上げて」
牧「これで未沙の評判に傷がつくようなら、未沙もそれまでの娘だったということだ。それに、俺はあまり心配していない。未沙が傷物になったら、ちゃんと架名が責任取ってくれるだろう?」
何だ、その責任って!! 取れるわけないだろ!! 姫は一国の王女、片や俺は問題だらけの一般市民以下。この命を差し出したって、贖えるわけないのに!!
しかし大統領の前で、ああだこうだと言うわけにはいかない。というか、大統領も面白そうな顔をしている時点で、絶体この計画、グルだ。
あまりに子供達の目が据わってきたので、牧は仕方ない子達だと肩を竦めると、説明を始めた。
牧「そんな考えの王女だ。自分が望んだ相手は、自分などお呼びでないと知らしめた方がいいだろう? お前達だって、そのつもりであんな表情をして写真に写ったんじゃないのか?」
りな「僕はいつも通りの顔だったはずですが」
牧「そうだな。間違っても見合い写真用の表情ではなかったぞ」
架名「俺、どんな顔してましたっけ?」
牧「……随分生意気な顔してたよな、お前。見合いではなく決闘でもしに行くつもりか?」
架名「そんな顔してました? 俺、素直だから顔に出たんですかね」
牧「言ってろ。肝心なことはポーカーフェイス貫きやがって」
架名「何の話です?」
肝心なところはすっとぼけて見せる。
そう牧も華菜も思っているところに、大統領が遠慮なく直球を投げた。
大統領「未沙姫のこと、どう思ってるのかね?」
架名「妹のように大切な姫です」
だから、ソレだろう!! と、大人達は喉元まで出かかったが、それ以上の追及はしなかった。
しかるべき時が来れば、必ず架名を陥落させるつもりだから。
大統領「しかし牧も考えたな。王族の正装は軍服ではないだろうに、わざわざ軍服を着て撮ることで架名達の立場をそれとなく知らせ、その上で、架名は王族が目をかけているとはっきり伝える。りなに至っては極度の女嫌いで、仕事が恋人だと言っているから結婚は諦めていると伝えて欲しい、とは。おかげであの王女はカンカンだったそうだ。恥をかかされた、と」
牧「因果応報ですよ。昔、未沙に助言を下さったそうですが、全くうちの子達には必要のない助言で、本人が肝に銘じるべき言葉だと思いましたので」
牧の言葉に、大統領はふっと笑うと、未沙と架名とりなに目を向けた。
大統領「3人とも、マナーも一流だから心配は要らないというのに。あぁ、このケーキは美味しいぞ。ほら、3人とも食べてみなさい。子供がおやつを前にして手を付けないなんて、大人が虐げているようでいけない」
その言葉に未沙がふっと笑うと、架名達に顔を向けて「頂きましょ」と合図を出した。
それは、主人としてのマナー。しかし共に食事をしようと誘うその行動で、あなた達は私と同等の立場だと示している優しい合図だ。
未沙「ほんと、美味しいわね」
架名「姫。イチゴがありますけど、召し上がりますか?」
未沙「いいの?」
架名「どうぞ。ほら、口あけて下さい」
自分のフォークで刺したイチゴを未沙の口に入れるという、テーブルマナー上非常識なその行動は、周りの目にはいちゃついているようにしか見えない。
しかし、彼らにとっては日常の姿だ。
そんな行動を平然とやってのける二人を見て、大人達は”早くくっついてくれ”と心の底から願うのだった。
Fin.
高杜観覧感想文:
12月に、見開き写真立てを開いて頬が痛くなるくらいニマニマしたのが昨日のようです。毎日机の上に恋人の写真のように鎮座しております。
どんな状況で撮られた写真なのだろうと考えて、ぱっと閃いたのがお見合い写真。しかし本人たち、絶体乗り気じゃない。ということで、乗り気じゃないのにお見合い写真を取らされる状況を作り出すことにしました。
まさか、大統領までお出ましになるとは(笑)
架名のどこか挑発めいた表情といい、りなの口をへの字に結んでガン飛ばした表情といい、各々の個性が出ていて面白過ぎて……失敬。素敵すぎる写真に仕上がっているじゃありませんか。
本編では描かれないワンシーン、楽しませて頂きました。
憂さん、楽しいお見合い写真を、ありがとうございました!!
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