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武藤さん 2021年賀状
武藤 径様から、年賀状を頂きました。武藤 径 様 https://estar.jp/users/157026694
見渡す限りの雪原は、どことなく寂しかった。
一面真っ白な銀世界。
普段は深緑色をした山々も白化粧し、どんよりと垂れた灰空と、粉砂糖に覆われたような野原が辺り一面に広がっていた。
傍にある柿の葉は、冬の到来前に落ち損ねたのが数枚、吹雪く風に揺れながら枝にしがみついている。
誰の姿もない吹き曝しの光景は、実に寒々しい。ここにはいつも、必ず誰かの姿があって、賑やかな場所なのに。
青々と葉を茂らせる季節には、木陰で読書をしたり、子供達は原っぱをボールを追いかけて駆け回る。
実の生る季節には、木の下で落ち葉焚きをしながら焼き芋を作り、色付き熟れた柿をもぐ。時には鳥達が相伴に預かろうと、甘い果実をつつきに飛んで来ることもあった。
だから、この色を失った世界が、どことなく別世界のように見えたのだ。
「色を添えよう」と、ふと思った。
真っ白な雪が羨ましく思う程に添えなくてもいい。
ただ、自分達は純白という色を持っているのだと認識させられるように、色を添えてやろうと。
そうすれば、このどことなく寂しく見える景色が、いつもの世界に見えるのではないかと唐突に思ったのだ。
しかし、どうしたものだろう。
色を添えるという簡単な行為が、この雪原を見ているとどうしたら良いのか分からなくなってしまうのだ。
暫くそうして悩んでいると、キャッキャと子供らが学校から帰って来る声が聞こえた。
その声を聴きながら、昔を思い出す。
よくここで、雪合戦をして遊んだこと。
”かまくら”を作って、中で餅を焼いたこと。
雪玉を転がして、雪だるまを作ったこと。
―― それだ。
思いついたら居ても立っても居られず、体が動いた。
雪だるまなんて、作るのはいつ振りだろう?
久し振りなのに体は覚えているようで、若い頃に作った通りに雪玉を転がしていく。
暫くすると、学校から帰ってきた子供達が元気な声を張り上げながら走ってきた。
「何やってるの~?」
雪だるまを作っていると教えると、子供達は目を輝かせた。
皆で2つの雪玉を作り、せーのっと掛け声を合わせて片方の雪玉の上にもう一つの雪玉を乗せる。
その雪玉が落ちないように雪で補強してやると、まっさらな雪だるまが姿を現した。
だが、これでは寂しい。
色だ。色を添えなければ。
そう思っていると、傍を消防団の男が通りかかった。
雪だるまを見て破顔し、手に持っていた赤いバケツを被せてくれる。
そうして眺めてから、目と鼻と手がないなと、消防団の男はあたりを見回した。
だったらと、子供達が思い思いに駆け出す。
ある子は自宅へ帰り、秋に集めて箱にしまっておいたドングリを持って来た。
ある子は学校のウサギ小屋へ入り、ニンジンのカケラを失敬してくる。
ある子は公園の脇に積み上げられた伐採された木から、手になりそうな枝を2本拾って来た。
そうして共に作り上げた雪だるまは、華やかにオシャレをして楽しそうに微笑んだ。
その光景は、子供の頃に戻ったかのような錯覚に陥らせる。
子供らは、キャッキャと楽しそうな声を上げて、雪だるまの周りを駆け回った。
見渡す限りの雪原は、いつも通りの姿を取り戻した。
もう、寂しさなど感じさせない。
真っ白な銀世界でひときわ目立つ赤いバケツの帽子とニンジンの鼻は、一面純白に覆われた景色を更に白く引き立てて見せた。
それが、何とも美しい。
薄くなった雲の切れ目から、一瞬だけ夕陽が差した。
その陽光に照らされて、雪がキラキラと光を反射する。
まるで天使からの祝福を受けたようだ。
その光景に魅入りながら、満足感が心に広がる。
そして思うのだ。
雪原も美しい、と。
Fin.
高杜観覧感想文:
2021年のお正月に頂いた年賀状です。
お披露目が遅くなり、申し訳ありません(平に平に)
このタッチが本当に温かみがあって、武藤さんの描かれるイラストはほっこりするなと前々から拝見するたびに思っていたら、頂いてしまいました。
こんな素敵な年賀状を!!
これは宝物庫へ収蔵して自慢せねば。
いや待て、宝物庫だろ? SSはどうするんだお前。
童話的な話にすべきか、どこかひと場面を切り抜いた話にすべきか……?
見つめ続けて、ひと昔前の村の雪原イメージにと思ったら、この話が出来ていました。
柔らかく微笑む温かな雰囲気の雪だるま。
ちらちらと降る雪。
まるで結婚式のシャンパングラスの中を覗いているようだとふと思ったら、”天使からの祝福”という言葉が浮かんで、イラストの光景は話の最後の光景にしようと思ったのでした。
武藤さん。温かな雪原雪だるまの年賀状、ありがとうございました!!
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