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紙葉さん 2021年賀状
海善紙葉 様から年賀状を頂きました。海善紙葉 様 https://estar.jp/users/257232848
はぁっと白い息を両手に吐く。
ほんのり温かいそれは、冬の風に攫われて、すぐに冷えた。
かじかんだ手に、再び息を吹きかける。
空を見上げれば、薄氷の空が広がっていた。
冬の空だ。
どこまでも高く、それでいてどこか儚げな印象の空は、とても澄んでいる。
巡る季節を反映する昊は、見上げた時々に景色を変えるから面白い。
山の頂に建立されたこの神社は、村の中では一番空に近い場所にある。
彼女は、この神社の屋根から見上げる空が大好きだった。
ザッザッと竹箒を動かす音がして見下ろすと、境内を掃き清める巫女がいる。
寒い中ご苦労なことだ。毎日まいにち、休むことなく境内を掃除してくれるから、いつも綺麗な状態に保たれている。
正しく清められた神社は、清浄な空気で満たされていた。
これも祀られている神様のおかげ。
人々の信仰を集められなければ、廃れてしまう。廃れた神社の神は力を失い、やがてこの清浄な空気も失われる。
そうしたら、今の姿のまま長らえることはできないと知っているから、仕えてくれる神職たちには感謝していた。
地上を見下ろしていると、村から隊列を組んでこちらへ向かう一団があった。
皆、役割に応じた荷物を担いでいる。
ある者は木材を。
ある者は大きなつづらを。
ある者は楽器を。
明日は新年だ。きっとその準備に来たのだろう。
予想通り、神社に辿り着いた一団は神主への挨拶もそこそこに、持って来た木材を組み合わせ、簡素な神楽殿を築いた。
その傍では、宴会の準備をする女達の姿もある。
出来上がった神楽殿に、神主が祝詞を読み上げる。
そうしてひと段落ついた頃には、日はとっぷりと暮れて、辺りは夜闇に包まれていた。
空気は温かさを失い、冷えていく。
一度身震いをすると、ボッという音と共に、パチパチと何かが爆ぜる音がした。音を頼りに目を向けると、神楽殿の周囲が明るくなっている。
そこに浮かぶ、人々の笑顔。
共に祝い膳を囲む、村人たちの他愛無いやりとり。
心休まるその光景を眺めていると、境内の中に続々と人が集まってきた。
そうして、ゴーンという重苦しい鐘の音が、殷々と夜闇を震わせる。
108つの煩悩を打ち消さんと鳴らされる除夜の鐘を静かに聞き終えると、境内の中が華やいだ。
横笛の音が先陣を切り、小太鼓、大太鼓がそれを後押しする。そこに鈴の音が寿ぎを添えて、巫女達が神楽を舞った。
手に持つ金銀の扇がひらりひらりと蝶のように舞うと、人々の間から感嘆が漏れる。
神楽を奉納した巫女達が神殿に恭しく礼をすると、村人達の賑やかな祝声が境内に響いた。
あぁ、また季節が巡る。
厳しい冬が過ぎて、慶ばしい春が来たのだ。
気が付けば、冷えた空気はほのかに温く、かすかに梅香が鼻腔をくすぐる気すらした。
今年も、この村人達が息災でありますよう。
―― 春風献上
「春の暖かい風を、皆へ」
幸せそうに談笑するその姿を眺めながら、夜空に向かって突き出た口蓋を上向けた。
コーン
甲高い鳴き声は、彼らに届いただろうか?
今年も山の上から彼らを見守っていようと、稲荷の狐は思うのだった。
Fin.
高杜観覧感想文:
2021年のお正月に頂いた年賀状です。
お披露目が遅くなり、申し訳ありません(平に平に)
さすが紙葉さん。達筆な上に、趣のある言葉のチョイスがステキ過ぎて、あぁ、どうしよう……と震える私でした(笑)
ここはやはり、春風をお届けするようなSSを書かねば。(語彙力が心配だ)
春といえば、通常は桜を思い起こすのでしょうが、お正月の春といえば、梅でしょう。
そこから連想した、我が地元の天満宮。
1月1日の午前0時。除夜の鐘と入れ違いに大太鼓の音が鳴り響きます。
あの音を聞くと、どこか気持ちが華やぐ。そんな思いを乗せた春風、届きましたでしょうか……?
紙葉さん。趣きのある年賀状を、ありがとうございました!!
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