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ポラード 様作 St.Evilnight Saga ~ Sad Whisper ~
コラボ作品【St.Evilnight Saga ~血華繚乱~より】
誕生日プレゼントにと、ポラード様が書き下ろして下さいました!!
ポラード様 https://estar.jp/users/157376360
⏳ ⏳ ⏳
【St.Evilnight Saga ~Sad Whisper~】
私は高杜 凪咲。醜悪な大人達の謀により、身体を弄ばれたが、純潔を守り抜く為に、自ら命を絶った。終わったと思ったが、私はヴァンパイアとして蘇った。
まずは、私を罠に嵌めた大人達に復讐をした。それからは、逃亡生活を続ける。神父を殺してしまったので、教団に狙われてしまうことになってしまったから……。
教団が放つ刺客達は、見かけは神父だが、中身は残忍な殺し屋と変わらない。奴らは魔物を見つけては、殺し続ける。中にはシスターもいる。
油断は禁物だ!
常に神経が張り詰めた状態を、強いられる日々が続いた。
私は奴らの追跡をかわし、孤独にヴァンパイアとして生き続けた。時には、反撃をして、殺やめた時もあったけど、後悔はしていない。
当たり前でしょう。
私だって生きたい!
これから、色々な事を経験して、人間としての楽しい時間をたくさん過ごしたい。
そして、人並みに幸せになりたい!
魔物になってしまったけど……。
私の逃亡の旅は続く。蝙蝠達と友達にはなったけど、時々、人間の温もりが欲しくなってしまう。
だからと言って、無暗に人の血を吸う訳にはいかない。全く関係のない人の未来を、奪い去る事は良くないから。自分を振り返ってみれば、直ぐに分かる事だ。
動物の血で我慢するけど、どうしても人間の血を欲してしまう。
そんな時は、行き倒れの人の血を頂く。なるべく、死にかけている人の血を吸うようにしていた。容赦なく血を吸う相手は、教団の人間達にしている。奴らは私の命を狙ってくるのだから、問題ない。
魔物になって蘇っても、自ら命を絶ってくれるから。中には、魔物になっても、平気な人もいた。
下僕にして、こき使ってやったけど、結局は、教団の人間に仕留められてしまったので、私は一人になってしまう。
時に、不老不死は残酷な物語だ。永遠の孤独は、鋭い刃となって、身も心も切り裂く。
誰も直す事ができない、塞がる事のない深い傷を背負った人生……。
救われない……。
私はフードのついた黒いマントのような服で身を包み、目の前すら見えない深い霧の中を歩いていた。
やがて、森を抜け、目の前の霧が晴れだすと、小さな村落が視界に入ってきた。私は、特に何も考えずに、森から最も近い家を目指す。人間の血が吸いたかった訳じゃない。
ただ、人が恋しかった。
孤独に耐えきれなかった。
理由なんてどうでも良い。
人の温もりが欲しい。
ようやく、一件の民家に辿りつく。かなり古い感じの家だけど、生活感は十分に漂っていた。
家の回りをゆっくりと歩きだす。薪を割るような音が耳に入ってきた。音の聞こえる方へと、急ぎ足で歩きだす。
目の前に、座り込み、切り株の上で、薪を鉈で割っている青年が映し出された。
青年は私の気配に気づき、頭を上げて、私を見つめる。
端正な顔立ちで、何処か野性的な雰囲気を醸し出していた。
青年は立ち上がり、ゆっくりと私に近づいて来る。
「見かけない顔だ。旅のお方ですか」
青年の温かくて優しい響きの声が、私の脳を直接震わせる。
私は俯き、静かに返事をした。
「かなりお疲れのようですね。良かったら、中で少しお休みになられますか」
青年は私の顔をじっと見つめ、丁寧に言葉をかけ、家の中に招いて、私に休息の時間と場所を与えてくれた。
決して裕福とは言えない佇まい……。
家の中には、粗末な木製のテーブルとイス、床を少し高くした程度のベッド、後は生活用具の幾つかが、家の中に散乱していた。
一体、どんな生活を送っているのだろう……。
青年の名前はメイ。優しくてとても頼りになる人だ。太陽が昇ると働きだし、太陽が沈み暗くなると家に帰ってくる。畑を耕し、作物を育て、森での狩りを、日々の生業としている。
生活そのものは質素だが、不満なんてなかった。メイの優しさに触れることが出来る日々に、私は満足をしていたから。
ただ……。
私は本当の事が言えなかった。
「太陽の光に当たってしまうと、死んでしまう病気なの」
とんでもない嘘をついてしまう。
メイは全く疑うこともなく、私の嘘を受け入れる。メイの純朴さは、私が求め続けた物を悪戯に加速させていく。
メイとの何気ないお喋りの時間が、楽しくて仕方が無かった。
ようやく出会う事が出来た、私にとっての安息の日々。
こんな優しくて素敵な日々が、何時までも続けばと……。
ひたすら祈り続けた。
二人で談笑をしながら、歩いていると、村の人達から、夫婦にみられる時もあった。そんな一瞬に喜びを感じている自分が、微笑ましくもあった。
何時までも続けば良いと願ってはいるものの、私の身体が許してはくれないのだ。
私は運命を、神を呪う!
人の血を吸い続けなければ、身体を維持していく事が出来なくなってしまった宿命を!
メイには、「森の中を散歩してくる」と言っては、森の中の動物を捉えて、血を吸って身体を騙してはいたけど、限界はやってきてしまう。
人の血を吸わずにはいられないのだ。呪われた渇きを潤わさなければ、私は干乾びて、終わってしまうだろう。
終わりたくない……。
そんな自分勝手な想いは、悲劇を生み続ける。
分かっているけど……。
今の幸せが、永遠に続くなら……。
メイもきっと、そう望んでいる筈だ。そんな身勝手な思い込みが、私を魔物へと突き動かしていくのだ。
メイと抱き合った時に、「許してね」と一言、呟き、私はゆっくりと、丁寧にメイの首筋に牙を喰い込ませた……。
私は今まで、自分が歩んできた道程を語った。メイは全てを許してくれた。そして、受け入れてくれた。
一瞬を永遠に変えることができたのだ。
永遠の時を生きてきた中で、最高の瞬間だったかもしれない。
二人で、永遠の時間を楽しく過ごすことが出来る。
けど……。
新たな心配事が出来てしまった。メイも人の血を吸わなければならなくなったと言う事。メイは優し過ぎる。もしかしたら、人の血を吸う事を拒否し、自ら灰になる事を選択してしまうかもしれない。
その時は、私の血を与えることにしよう。私の全てを受け入れてくれたメイのことだ。納得してくれる筈だ。
これから、色々な苦難がやってくるだろうけど、メイと一緒なら、乗り切れるだろう。
幸せすぎる時間の中、私はそう想い続けることにした。
私に常に付き纏う心配事。それは、教団が放つ刺客達……。
神父やシスターの皮を被った悪魔だ。
自ら志願して、魔物になる人間なんて、滅多にいない。不幸な出来事が原因で命を落とし、不運にも魔物として蘇ってしまった者が殆どなのだ。
元は人間だった!
人間の心を持っている!
けど、奴らにとっては、そんな事は関係ない。魔物を仕留めると言う使命を、機械的に果たすだけのこと。
私にも、メイにも、人間の心が残っているのに……。
そういう意味では、奴らの方が、私達より遥かに魔物的な存在のような気がする。
平穏で幸せな日々は、いつも突然、必然であったかのように破壊される。私がこの村にいる事が、教団に分かってしまったのだ。
教団の刺客が送られてきたのだ。教会すらないこの村に、神父が布教の為に来るなんて、おかしな話だ。
夜になり、奴は仕掛けてきた。私達の家に、いきなり火を放ってきたのだ。
メイは慌てて家を飛び出してしまい、待ち構えていた奴に、銀の剣で突かれ、絶命した。
私は必死に悲鳴を堪え、裏から外に出る。
銀の剣を持っている奴が、まだ家の回りをうろついていた。
狙いは私だった筈だ。
私は気づかれないようにそっと近づき、背後から一気に爪を伸ばして、奴の身体を貫いた。
奴の身体が仰け反った時に、血も頂いた。
「魔物として生きるか、信仰心を貫くか、好きにしなさい」
そう言い残し、私は暗闇の中、誰にも気がつかれないようにこの村を去った……。
ごめんなさい……。
謝って済む事ではない事くらい、分かっている。
どれだけ涙を流しても、私が犯した過ちは、未来永劫、許される事はない。
私が人並みの幸せを、望んでしまったがために招いた惨劇。
メイを蘇らせることは出来たかもしれない。
けど、諦めた……。
これ以上、メイを苦しめたくなかったから。
定住する生活に慣れてしまった、メイに放浪生活は無理だ。それに、私には常に教団が付きまとう。優し過ぎるメイでは、戦い方を教えても、戦う事は出来ないだろう。私と一緒に暮らしていては、不幸な人生を何度も繰り返すことになる。
メイを静かな永遠の眠りにつかせて上げることにした。
今になって想う……。
メイは私の苦しい嘘に、気付いていたのではないかと……。
悠久の時の中を生き続ける私にとって……。
人並みの幸せを求めれば、儚き夢となって散ってしまうのだから……。
けど……。
魔物と正面から渡り合えるくらいの強い人なら、大丈夫かな……。
あり得ないか……。
Fin
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