銀を持つ毒味役

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「 ーーじゃない?」 「 でございますーーさま」 少しずつ言葉を覚えた カートに乗せられて運ばれてくる物を眺めながら、美しい所作で下がる様子も 沢山の人が談笑する姿も 忙しそうに料理をする姿も 大事に大事に、わたしを磨いて、満足そうに頷く姿だって わたしのお仕事は言葉を覚えることから始めたの ラビと一緒に手を握って 声を出す 大丈夫 わたしは手なんてなかったけれど、物を器用に持てた わたしは足なんてなかったけれど、自由に歩いたり走ったりできた わたしはいきてはいなかったけれど、ちゃんと呼吸はしていたの 「いい?すうーーって息を吸って」 (すぅ……) 「そう。ほら、シルも呼吸してるだろ?それをはぁーって吐くときに、喉を震わせるんだ。喉はここだぞ」 ラビの手がわたしの首を指す ここを震わせる 「……ーーーぁ」 「そう!いまみたいにもっかい!」 「……ーぁあー」 「いい感じじゃん!…一週間かかったけど。あとは、口と舌をしっかり使って言葉を話すだけだ」 (こくり) わたしを連れてきたあの人も、今は屋敷にいるみたい 今日はテディの番なんだって 一体何をしているのかはわからないけれど いつかわたしも同じようにあの人と何かをするみたい 夕食の時 全員で集まった食堂へ車椅子を押しながらあの人が出てきた でも…テディ、寝ているのかな 「ヴィンス様、テディは」 「一気に直したから、少し疲れて寝ているんだ。起こさないであげて」 車椅子の中に眠るテディは身体中に巻いていた包帯の一部が取れていた 顔の右半分、右手のひら、左足のつま先から足首まで 「やっぱり、時間かかるんだろ?」 「仕方がないね。テディは君たちの中で一番、破損がひどいんだ。フランチス、部屋まで運べる?」 「はい。お任せくださいませ、しっかりお届けいたしますわ」 「ありがとう。君はいつも優秀だね」 「勿体ないお言葉ですわ」 目に見える信頼 わたしはあの人とフランチスのそれがとても美しく見えたのでした
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