アルトドランの明けない夜

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ふらふらと歩いていると何も無い狭い道から声が掛かった 「また“見つけた”の?ヴィンス」 ヴィンスと呼ばれた彼は後ろを振り返ると、先ほどまでいなかった人影を見る 赤い唇を楽しそうに釣り上げて笑う姿はまだ顔しか見えない 「またなんて、失礼だなぁ」 「そうやってずっと引きこもってばかりいるから、道具ばかりに関心を向けてしまうなんて…思わないのかしら?」 耳元に囁いた声は思ったよりも響いて、視線は先ほどヴィンスが店主から手に入れたそれを眺めていた 暗がりから出てきて全身がわかるようになる 彼女の後ろには二足で歩く羊が大きな荷物を抱えてじっと立っていた 「君に言われる筋合いはないよ。残念だけど」 「…変わり者。これだから命に終がない人はわからずやばかりだこと」 「僕にとっては君の方が変わり者に見える。魔女のくせして、関係のないものばかりを求めるなんて」 「もう飽き飽きよ。私、人に生まれてみたかったのに」 「じゃあこのまま街から出ていけばいい」 「そんなことしたら消えちゃうでしょう?」 途端に興味を無くしたように立ち去っていく姿を見送ってから、ヴィンスはまた歩き出した そろそろ、空が白み始める 夜はもう直ぐ終わる 太陽が顔を出しはじめて建物の影が濃くなってひとり、またひとりと姿を消していった 後に残ったのは人間達と露店のみ ヴィンスも他の者達と一緒に自らの世界へと帰っていった 今日の成果を手にして 彼が黒く染まった食器の代わりに置いていったしおりが、きらりと太陽の暖かい光を反射する 『ありがとう……バイバイ』 草を踏みしめる音が聞こえた
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