アルトドランの明けない夜

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ヴィンスは少女を抱き上げたまま歩く そんな二人を大きな屋敷は静かに佇んで出迎えた 玄関である扉を開けて、埃一つ落ちていない絨毯の上を歩いて 階段の下を抜けていくとシャンデリアこそないものの、まるで貴族のような美しく広い食堂だった 長いテーブルの上に黒のテーブルクロス キャンドルの炎は薄く火を揺らめかせている ヴィンスはぐるりと視線を巡らせて、全員がいることを確認した 庭園を整えていた燕尾服の男 食事の支度をしていたのであろう、エプロン姿の女 一人、車椅子に座る包帯に包まれた青年 車椅子を押していた淡い色のドレスを着た少女 片目を眼帯で隠したうさぎの耳を持つ少年 ヴィンスによって集められた住人の目は、腕の中にいる少女へと向けられている 「また、新しい子が来た」 「本当。ヴィンス様はよく見つけてくるわ」 「……」 「でも、ここに来れば安心って、テディも言っているわ」 「じゃあ歓迎しなくちゃ」 喋る、口々に 少女は腕から降りて、黒いスカートの端を持って優雅に頭を下げた 言葉は話せなくとも美しい所作はどこかで身につけたように 「まだ話せないんだ。世話は…そうだね。ラビにお願いしようか。 ……僕は少し出かけなければいけないから。色々教えてもらうといいよ」 ヴィンスは少女の頭を撫でると外へと出て行ってしまった 残されたのは集められた住人達だけ すぐに興味を無くしたように各々がいた場所へと戻っていく中、少女の元へと少年が歩いてきた ヴィンスにラビと呼ばれていた男の子 「じゃあ自己紹介をしようか。君は、一体どんな物だったの? おれは………まあ、いっか。どうせすぐにわかるし」 無邪気に笑う顔は少女にとって初めて見る顔だった 少女のいた場所では、こんな人はいない みんなみんな、仮面を貼り付けたみたいにうっすらとした微笑みを崩さなかったのだから
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