彼女との生活を続けていると…

3/3
前へ
/14ページ
次へ
「あれ……俺、いつの間に帰ってきた……?」 仕事中から、気が付けば自宅のマンションへ戻ってきていた。 その手にはしっかりとスーパーの袋があり、どうやら食材の買い出しも終えているようだ。 しかし、今の俺にその記憶はない。あの後、仕事をどう切り上げ、どこのスーパーで何を買って、どうやって帰ってきたか……。 頭の中が混乱している。そんなことをつゆとも知らない彼女は、いつも通り俺を玄関で出迎えてくれた。 『おっかえりぃ~』 「あ、た、だいま」 『何? 元気ないね。仕事つかれた?』 「いや、そういうわけじゃないんだけどさ」 とりあえず、玄関で靴を脱ぎ移動する。買ってきた食材はそのままキッチンの上に置き、ネクタイをほどきながらクローゼットの前へ。 『今日はあなた、カレーの気分だもんね! おっ、よしよし、買ってきてくれたね』 ちょうどカレールーがなくなりかけてたもんね~。と、彼女が言っているが、俺は何を買ってきたか全然覚えていないため返事をすることができなかった。 着替えを終え、うがい手洗いを済ませ、そこで初めてキッチンに置きっぱなしのスーパーの袋から買ってきた食材を出す。 ……おかしい。 彼女はスーパーの袋から食材を出してはいなかった。 中身を見るにしても動かした形跡もないので、この袋の一番奥底にあるカレールーを見つけることはできないだろう。 見える食材といえば、袋の入り口から半分見えている食パンと、透けて見えるオレンジ色の人参。目を凝らしてみれば、ジャガイモっぽいものが見えるだけだ。 買ってきた本人の俺が、何も覚えていないのに、なぜ彼女はカレールーを俺が買ってきたことを把握しているのか。 そして「カレーの気分」 今日の俺の記憶にある「カレーの気分」といえば、仕事場で後輩があのやり取りの後におやつだと言いながら食べていた「カレーパン」を見てからの俺の気分だ。 家にいたであろう彼女に、なぜ俺のこの「カレーの気分」が分かったのか。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加