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彼女の思惑
私のマンションに、ひとりの男性が入居してきた。
性格はずぼらだけど女性には基本的に優しい。容姿は中の上……頑張って上の下くらいかな。
最初は私に照れてそっけない態度を取っていたが、時間をかけて仲良くなるほど自分の懐を見せてくれる。
年齢も私のひとつ上で、同世代だから会話にも困らない。
家事はからっきしだったけど、私が叩き込んだのだから今ではその辺の女性より全然できるようになった。
「この唐揚げの味付け絶品だなー」
『それは私のお母さんの味付け。おふくろの味ってやつかな。』
「いいねぇ~、おふくろの味。俺のおふくろの味ってなんだろなー……」
『なになに?』
「…………」
『え、なに? 何も思いつかないの?』
「いや、逆ぎゃく。結構思いつくからどれ言おうかなーって」
うわ、幸せもの~。
私がそう言うと、彼は「飯食い終わったら実家に電話するかな~」と照れていた。
憧れの家庭、憧れの両親。憧れの身体。
あこがれの……ううん、私だって幸せ。両親は優しかったし、妹もかわいかった。だから私は「家庭」に戻りたい。
私がネガティブな思考になっていると、彼が「大丈夫か?」と心配をしてくれる。ずぼらなのに心配性で、人の顔色に敏感に反応する。
外では家ほどではないようなので、自惚れても良いだろうか。
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