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結局後輩は、コウちゃんに背中を押されて高井戸で降りていった。コウちゃんは三駅先の最寄り駅ではもちろん降りられず、終点で駅員に起こされて電車を降りた。フラフラと車両から出てきたコウちゃんは、ホームのベンチに取り合えず座った。そのまま座り続けたらまた眠ってしまいそうで、駅員が迷惑そうにコウちゃんをマークしている。
「コウちゃん、はじめまして。大丈夫?」
はじめましてではない距離に密着して隣に座ると、コウちゃんは駅員のマークから外れた。駅員にマークされていた方が、コウちゃんにとっては安全だったのかもしれない。酔っ払ったコウちゃんは、力の抜けた白い手を見ず知らずの男の両手に挟まれて、それでもされるがままだった。
「やっぱりコウちゃん、指細いね。好みだな」
冷たい指先を口に近づけて、はあっと息を吹きかけ暖める。コウちゃんは今にもくっついてしまいそうな目蓋を頑張って見開いた。
「“ユタ”さん……?」
ぼうっと呟くコウちゃんに、あたり、と笑いかける。
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