4

1/1
269人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

4

*  同性愛者専用雑談掲示板に、無防備にも個人情報をちょこちょこ混ぜながら書き込みをしていたコウちゃんに、目をつけていた奴は何人かいただろう。ユタはそのうちの一人。……という設定だ。コウちゃんの書き込みをプロファイリングしてSNSを探しあて、住所と学校、それに通院している病院まで特定していた。コウちゃんはよくSNSや掲示板にリアルタイムで書き込むので、ユタはこの四年ずっとタイミングを見計らっていた。  コウちゃんは他の書き込みに煽られて、掲示板に一度手の写真をアップしたことがある。すぐにその写真は消されたが、ユタはコウちゃんの手をめちゃくちゃに褒めた。  可愛い、綺麗、きっと本人は可愛い系の男の子だ等々。しつこくしつこく誉めちぎると、コウちゃんは、そんなことないです、ありがとう、初めて言われた、生きてるの認めて貰えたみたいで嬉しい、と初々しい反応をしていた。それからコウちゃんはユタが強引に誘うと、アドレスを交換して時々個別に話してくれるようになった。  大学の話、好きな服の話、まだ家族にカミングアウトしてない話、友達と上手く付き合えない話、それから好きな人の話。ユタは親切にコウちゃんの話を聞いた。  コウちゃんにとってユタは、人当たり良く誰にでも親切で、常に紳士的に振る舞う大人の男だ。そして、コウちゃんと同じ同性愛者で、同じ悩みを乗り越えた先人であり、人と上手く接することができないコウちゃんの良き理解者であり、コウちゃんへの好意をほのめかす気になる存在。ただし、ネットでのやり取りしかしていないため少し警戒している。  四年間、アドレスを交換してからも一度も会ったことはなかったが、少しずつ信頼関係を築いてきた。ユタは焦れながらもチャンスが来るのを待ち続け、ついに今日その日が来たと思った。  夕方、コウちゃんは、今日は渋谷でサークルの飲み会、好きな人も来る、と掲示板に書き込みをした。その一時間後には飲み過ぎたと書き込みをした。二時間後には世界がぐるぐるしてる、とひどくピンボケした駅の写真もアップした。写真の場所を特定したユタは、急いで勤務先の戸締まりをしてその場所に向かった。浮かれた大学生の酔っ払い集団と、掲示板にアップされていた駅の写真を頼りにコウちゃんを見つけるのに、そう時間はかからなかった。同じ電車に乗り合わせて、後輩に寄り添って嬉しそうなコウちゃんが一人になるのを、離れた位置からじっと眺めて追った。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!