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 結局の話だが。  彼女はクリスマスイブでマフラーを渡せなかった。それは学校が冬休みに入ったからで、相手の家を知らず届けられなかったからだ。  新学期になり渡すのかと思えば、バレンタインに渡すと言い、なるほどと納得していると、塾で知り合った人と付き合い始めたので、その彼にあげるのだといった。  まぁ、プレゼントになったのだからよかった。と思ったら、一生懸命作ったマフラーを笑われたので怒ったら、マフラーをどぶに捨てられたといった。  まさに、………。言葉にできなかった。単純にいわば、5000円が無駄になった話だ。だけど、一目一目大事に編んだものを笑うなど、しかも、どぶに捨てるなど、好きで付き合っていた相手じゃないのか?  その日以降、編み物について彼女とは話さず、彼氏の話しもせず卒業した。  何の縁か、同じ高校に進学したが、彼女はGWを前に学校を去っていった。  その後の彼女がどうなったかあまりよく解らない。水商売の道に進んだとか聞いたが、本当かどうかも解らない。  一度は遊びに行っていた家も、今ではあの周りが変わっているだろうからたどり着ける自信もない。そこまでして会いたいわけでもないので、今年やけに思い出したことに本当に驚いている。  まぁ、セーターを編もう。というテレビで編み物師が言った言葉があって、 「好きな色の糸を見つけたとき、この糸を編みたいと思ったら、たまらなく編みたくなるのよね」  その言葉が、完成した喜びをかみしめている彼女を思い出させたのだと思う。  今、自分が編んでいるベッドカバーに愛着がないわけじゃない。長く使うために好きな色の糸を配色している。編み方だって長持ちすると思われるもので編んでいる。あまり重くなり過ぎず、だからと言って、スカスカだと寒いから。いろいろ考えている。でも、  出来上がって、うれしい  気持ちは遠のいていたかもしれない。  彼女のように、不格好でもいい、完成させた自分を褒めて、出来上がったマフラーをそっと抱きしめられる人で居たい。  ちょっと、マフラー編んでみようか……いや、もうねぇ、技術や技巧に走りすぎると、ただただまっすぐに編み進めるマフラーのほうが難しくなってくるんだよね。何の変化もない、単純作業が、もう、無理だわ。  だからってわけじゃないけど、今年は、久しぶりにセーターでも、編んでみようかな。
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