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花もない、サプライズもない、甘いセリフもないけれど
「お前さ」
学校の帰り、二人で池の鯉をながめていたとき、不意に正樹が口を開いた。
「錦鯉のこと、どう思う?」
「は? どうって……。まあ、きれいよね」
夏希はぶなんに答えた。
「他に何か思わねえ?」
「他……他に?」
夏希は池の鯉に目をやった。黒が大半だが、色の着いたものも何匹かいる。そのなかでいちばんカラフルな鯉を見つめてみたが、綺麗以外、とくには何も思わない。
「正樹は、何か思うの?」
夏希はたずね返してみた。すると正樹は推理小説でも読んでいるような横顔で言った。
「保護色とは真逆のあの柄と色。捕食してくれと言わんばかりのあいつの身には、実は毒があって、身をていして仲間を守る存在なんじゃね?」
「聞いたことないよー、そんな話。」
「いや、わからん。俺の仮説が違ったとしても、あいつには何かある。」
言って、また黙った正樹の隣で、夏希はヒマになってきた。何を考えてるのか知らないけど、考えるのが好きな人だから、しかたない。人間は考える葦、か。
「人間だね、正樹」
「は? 脈絡ってもんがねえな、お前は。なに考えてんだか」
何を考えてんだかわからない?
似た者同士ということ?
自分は言葉が足らないだけだから、違うか。
違うけれど、夏希はひとり、ふふっと笑ってしまった。
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