トオマ エイム

3/3
60人が本棚に入れています
本棚に追加
/41ページ
 初耳だった。私がサバゲーに興じて、もうすぐ一年が経つ。  きっかけは確か、陸上自衛隊だった父の紹介。当時はサバイバルゲームの〝サ〟の字すら知らなかったのだが、ちょうど趣味に飢えていた時期だった事もあり、とりあえず言われるがまま参加。初めて持った銃の感触は今でも記憶に新しい。いざ、やってみたところこれが面白いのなんの。すぐにサバゲーに魅入られたのだ。私が参加したチームは皆、父と面識があり待遇も良く、ルールや武器の扱い方など一から教えてくれた。  そして一週間が経ったある日、初めてフィールドの土を踏んだ。いわゆるデビュー戦というやつである。  もちろん最初から事が上手く運ぶわけはなく、世辞にも戦力とは言えなかった。チームの足枷と貶されても反論ができない。このままでは紹介してくれた父の顔に泥を塗ってしまう。  そこで私はまず父に教えを請うた。しかし返答は端的なもので「練習あるのみ」の一点張り。 ――まぁ、何でもかんでも人に頼るのは褒められた事ではないですね。  というわけで近くの公園――は子供達の遊び場なので、自宅からやや離れたそれほど深くない樹林で練習に励んだ。  空き缶を適当に置いて狙撃したり、学校の休み時間にサバゲーの教本を読んだり。  やがて一ヶ月もすればよほど足場が悪くない限り、全ての弾を空き缶に命中させられるようになっていた。元々、対象物との距離間を把握する感覚に長けていた事もあっての上達速度だろう。恩恵はそれだけではなく、樹林を歩き回っていたため自然に足腰が鍛えられ基礎体力も成長していた。その証拠に体力テストの評価がCからBになったし。 「あの……私ってどんな感じで広まっているんですか?」 「ん、気になるかい?」 「それはまぁ……はい」  自分の事だしね。 「そうだなぁ……。〝女ゴ〇ゴ13〟とか〝サ〇・コナー〟とか」  極めて心外だ。双方ともに偉大過ぎて私なんかに付けるにはもったいない。でもそれを指摘すればこの人の機嫌を損ねてしまう恐れも生じる。 「でも、その二つ名はしっくりこないっていう同業者もいるわけで」  そうだろう、そうに決まっている。そもそも本人がおこがましいと思っているのだから。 「最近では〝神エイム〟が主流だよ、君は」 「や、やめてください神だなんて!」  もっと偉大な存在になってどうする。咄嗟に否定したが彼は朗らかに笑い「ピッタリな名前だと思うけどな」と他人事のように言った。 ――勘弁してください。  しかし話しはここだけに留まらず、ベースキャンプへ帰るや否や敵味方問わず自分の通り名について談笑をされる羽目に。 「もう! 皆さんからかわないで下さい!」  まったく! 私には〝遠間詠夢(とおま えいむ)〟という名前があるんだから、二つ名なんて必要ないでしょう!   しかし彼らは「ごめんごめん」とまるで口だけでまるで反省していない、さながら子供を甘やかすよう口調だ。 ――私、高校一年生なんですけどね。  だがチーム内では最年少、参加者は皆二十歳を過ぎている。実質、子供じゃないか……。詠夢はげんなりと肩を落とした。 「よし。勝利祝いに牛丼でも食って帰るか」 「おお! リーダーの奢りですか!」 「馬鹿ヤロ」 「……」 「……奢りだよ!」  ワッと歓声が上がった。場の空気に相手のチームも便乗して喜んでいる。 「どうですか? 我々と一緒に」 「え、よろしいのですか」  迷惑じゃないですか、というであろう相手の言葉をリーダーは遮った。 「昨日の敵は今日の友ってやつですよ」 「そうですか。ならばお言葉に甘えさせてもらいましょうか」  こうして両チームの親睦が深まっていくのだろう。私はサバゲーでしか味わえないであろうこの雰囲気が堪らなく好きだった。  帰路、戦績や牛丼で満たされた満足感は何度体験しても新鮮で気持ちの良い、生きているとつくづく実感させられる。  しかし不穏な追い風が微かに吹いていた事をこの時の私は知る由もなかった――……。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!