60人が本棚に入れています
本棚に追加
一週間前から待ち侘びていた公式大会優勝常連チームとのサバゲー。フィールドは〝山〟なので、コンディションは良好よりも劣悪な方が多い。
どうやら今日は霧のようだ。
別に濃霧はそれほど珍しいわけではない。だが決して自然による恩恵だとは思えなかった。人工的に発生したような感じで根拠はないが気持ち悪かった。
――とりあえず、皆さんに近況を……。
詠夢は腰帯から無線を取り出し起動させ、マイクに向かって言葉を発した。
「……?」
しかし通話状態なはずなのに誰からも応答はなく、心なしか無線越しに呻くような声が聞こえている。トラブルだろうか。そう思ってもう一度応じるように促した、その時。
「……!?」
無線を通じなくとも山に轟いた甲高い悲鳴。女の声なのは明らかだ。自陣には自分以外は男なので相手チームだと見て間違いないだろう。詠夢は周囲を警戒しつつ声のした方角へ向かった。わざと叫んで自身に注意を向ける戦略とも考えられるからだ。
徐々に声が大きくなっている。音源は近い。ほどなくして人の影を確認できたが、霧が深く敵味方の判別がつかないため木の陰から様子を窺う事にした。
「……え?」
詠夢は思わず自分の目を疑った。男が敵チームの女を押さえつけて無防備な股座に頻りに腰を打ち付けていたからだ。しかもよく見れば襲っているのはウチのチームメンバーだった。
「……ありえない」
勝負の最中ですよ、と。初めて味方に敵意を覚えた詠夢は、チームメンバーへ銃口を向ける。
狙いを定め引き金を押し込もうとした、その時だった。
――誰か来る……!
詠夢は銃を下ろし、木の陰からそっと顔を覗かせる。薄っすらとだがその影が味方である事を確信した彼女は、これであの女の人は助かると安堵した。
しかし希望はものの数秒足らずで絶望へと変化するのである。
「痛いぃぃ!? 痛いぃぃ!? いっぎいいいいい!?」
女の断末魔は収まるどころか加速する。それもそのはず。彼らはまるで憑りつかれたように我先にと淫行に及ぶ始末。共通して私利私欲、殺して構わないと言わんばかりに玩具の如き乱暴に弄んでいる。
興奮などしない、寧ろ急に怖くなった詠夢はこの場から一刻も早く立ち去りたかった。しかし無自覚な正義感が彼女の動きを止める。今この状況では呪縛と大差ない。
その時だった。
最初のコメントを投稿しよう!