初体験

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「行き止まり……!」  しかし私は引き返すつもりはなかった。無駄、だからだ。向き直れば、すでに我先にと路地へ入って来ていた。周りの塀もそこそこ高く登れそうにない。経路を断たれた私に残された道は――……。 「――――――――!」  狭路地に響く――轟く奇声が勝利の雄叫びに聞こえて実に煩わしい。輪唱の如く耳を裂かんとせん咆哮に怯まぬように口唇を血が滲むくらいに噛み締めた。恐怖を必死に堪える表情を汚染者達はどう思っているのだろうか。  そんなもの〝嗜虐心がそそられる〟の一択だろう、考えるまでもないことだ。  餌を前に待ち切れない駄犬の如く勢いで突進してくる連中に私は片膝をついた。陵辱される末路を受け入れた――わけではない。それは連中に対して向けられた銃口が何よりの証明だった。  〝膝撃ち〟。それは地面に片膝をつくことで、重心を低くさせ射撃を安定させるこれもまた基本の構えだ。その屈んだ姿勢から派生する行動は多彩で、敵に見つかりにくい、逃げやすくなるといったメリットも含まれている。 「私の……(ターン)ですッ!」  私は先頭の一人の喉を狙って引き金を引いた。漆黒の弾丸が高速に螺旋を描き空を裂いていく。弾の先端が前衛の一人に触れると、次いで二人目、三人目と首で煙草を吸わせてやる事に成功した。  三人分の赤黒い液体がビタビタと滝の如く地面に噴き出す。三人とも体格は違えど身長はだいたいが同じだったのが功を奏したというべきか。  バタバタ、バタ、と。ドミノのように倒れた彼らは虫のようにピクピク小刻みに身体を動かしながら、ほどなくして動くのを止めた。 ――一発撃っただけなのに……。  撃った衝撃で腕の痙攣が治まらない。競技用の銃と純正がここまで違っていたとは思わなかった。 「ど? 本物を使った気分は?」  スマホから凛とした声が流れる。所長からだ。そういえば通話は切らないように指示されていたんだっけ。 「最悪です。これで私は前科持ちってわけですよね」  少し厭味ったらしく言ってみたが、所長はさぞ愉悦しているようだ。 「まさか本当に三匹を仕留めるなんてな。恐れ入ったよド素人」 「全然、嬉しくないです」と言って、その場で臓腑を伽藍洞にさせる。そんな私の様子を音で察した所長は「小娘にはまだ早かったかな」とくつくつと笑っていた。 「ま、今は丸腰だ。一度事務所に戻ってこい」  一方的に告げると向こうは受話器を置いた。まったく、腑に落ちないことだらけだ。しかし彼女の言う事ももっともだ。私は少女の躯を抱えてそろそろと事務所へ戻るのだった。
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