共同業者

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「連中、見境がなくなってきたな」  淫行の残滓が漂う汚染された都市、その路地裏で足元に転がる強姦魔の躯からナイフを引き抜きながら零した。 「ガスが濃くなってきている証拠か」  倫花は反吐か何かを吐瀉するかのように言った。  どこぞの馬と鹿が少子化問題を解消するという建前で実は童貞という肩書を捨てるために立案された『情欲汚染計画』が実行された。その計画とは不愉快極まりない悪意を凝縮したような内容だった。  端的に言えば、男の性的欲求を限界まで引き出すために強烈な女性ホルモンを凝縮した高濃度のガスを生成する計画で、それを童貞と蔑まれる同胞達の救世主という意味を込めてCMS(チェリーメシアスモッグ)と立案者は命名。  その効果たるや味覚、嗅覚、痛覚を遮断し知能を大幅に低下させることで情欲を原動力にするらしい。この計画を初めて見た時は落胆こそしたものの完全に信じ切っていたわけではなかった。  馬鹿馬鹿しいにも程度がある。  しかし日に日に増していく同姓の無残な有様。だいたい襲われていたのは若く端整な顔立ちの女だったのが、児童や老婆などの躯を目撃する事も多くなった。挙句の果てに昼夜問わずの愚行に走る輩も加速度的に増加している。そして半年も経った頃には、あまりに無慈悲な陵辱ゆえに殺人に成り果てるという情報が相次ぐようになった。強姦狂への尋問ではまるで会話にならなかったようで精神病棟への入居者が著しく増えたとか。  気に入らない、さっさと殺せばいいのに、と何度憤りを覚えた事か。  さらに悲劇は衰えを知らず、ついには法を重んじる公務員や医療に携わる者も悪行に加わる羽目に。助けを求めた結果、奴らの性欲処理の玩具に、なんてことはざらだ。  では、犯せば終わりなのか。見当違いも良いところだった。ガスは常に情欲を刺激する。そのため連中の欲求が尽きる事は半永久的にないのだ。まるで食べ物を拾い食らうかの如く横たわる屍体で行為に及ぶ、異常者も一日で何度か目撃した事がある。地獄絵図の一部になった気分だった。  過去にも同じ悲劇があったらしく多大な犠牲を払ったすえに都市に再び秩序が戻った。しかしそれはひと時に過ぎず、計画は完全に抹消されていなかった。組織の念密な調べを掻い潜り、とあるサイトの深層に保存されていたらしい。  そこで眠っていた揉み消された黒歴史を叩き起こしたどうしようもない屑共の登場というわけである。素行は言わずもがな。自分達が主人公(ルール)だと思っているから質が悪い。そもそも倫花を荒ませたのはその屑共が原因だった。  彼女の原動力は偏に〝復讐〟の一言に尽きる。それは奴らだけにとどまらず、性的暴行という概念そのものに向けた消える事のない憎悪と言えよう。
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