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そして、バレンタイン当日__。
ロウウェルの相談に乗った雄は、不安でしかなかった。なんせ相手は、今人気急上昇の新人女優。スキャンダルにならない方が可笑しいというものだ。
「ちょっと様子、見てこようかな」
余計なお世話だとは思いつつも、雄はロウウェルが好きだと言っていた相手に会った事はない。監督/憂も本編は始まったばかりで、噂ぐらいしか聞いて無いという。
(……神経質な人だったらどうしよう……)
お茶に誘った事が無いのなら、休憩時間にお喋り出来るような相手ではないかもしれないと思った雄は、不安の余り溜め息を吐いた。
これで上手くいってなかったら__。
もし嫌われる切っ掛けになってたら__。
マイナス思考全開で辿り着いたのは、スタジオ<牙に問う>の真ん前。見上げると、撮影中のランプが消えているので休憩中なのだろう。
邪魔にならないよう小さな声で、雄が「お邪魔しまぁす」と入室すると、撮影スタッフが寛いでる中で一際ぶっきらぼうで上から目線な会話が耳に入る。
「喉が渇いたな」
「水でも飲め」
「気の利かない男だな。狼人が皆女を蔑ろにする種族でないというなら、ここは茶にでも誘うものだよ」
おっと、ここは早速チャンスか?!
監督/びたみんと雄の監督である静繧の異様なスキンシップ・スタイルも視界に入って気になるところだが……。雄は物陰に隠れて様子を伺う。
しかし、雄の期待も束の間__。
ロウウェルは、表情筋をピクリとも動かさずアレマに言い返してしまう。
「……それは失礼。何しろ無骨者でね」
ーーうおい\(-_-)
どんなに恋愛ネタに疎いからと言っても、相談を受けた雄は素で突っ込みたくなった。
彼は本当にアレマが好きなのだろうか?
ツンデレ要素の持ち主だったとしても、今日を逃したらチャンスが無いというのに……。
せっかくの好機を棒にふるのかと心配していると、アレマが気のきいた返答をする。
「では茶を嗜む楽しみを、今日から覚えるべきだな君は。私の気に入りのカフェで、存分に楽しみを知るといい」
ふと教科書に載ってるマ〇ー・アン〇ワネットを思わせるような、気持ち斜め上目線のお誘いではあったが……。あんな冷たい態度をとったロウウェルにチャンスを与えるとは?!
ここで監督二人がネタ臭を嗅ぎ付けて、きゅぴーんっと狙いを定めるが、ロウウェルはそれに気付いたのか?
はたまた、雄の赤服が物陰に隠れきっていなかった所為か。二度目のチャンスを棒にふってしまう。
「失敬、急用が入った」
「は?」
この男は、今日が何の日か気付いてないのかもしれない。
呆気にとられたアレマを尻目にロウウェルが駆け寄った先は、物陰に隠れて様子を伺っていた雄であった。
「待たせた」
「いや、そうじゃないだろ?!」
お断りを入れられたアレマは、初対面ということもあって、雄と目が合っても頬笑むぐらいで済んだけど__。
恋愛ネタを踏みにじられた監督の憎悪が、まるで某名作に登場するタタ〇ガミのようだ。
「行くぞ、ヤッ〇ル」
「ネタにするな!」
半泣きでロウウェルの呆けに突っ込みを入れると、その足で向かった先は、先日知り合ったばかりの巫女の<月乃ちゃん>と浄化の力を使える双子の聖女<シラ&シル>。
事情を説明して祈祷をしてもらったお陰で、大事には至らなかったものの。だからと言ってロウウェルはアレマにチョコを渡せぬまま、バレンタインは過ぎ去ってしまうのであった。
【完】
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