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11話『持ち物チェック』
千隼が行方不明になる前に戻ったかのように二人微笑み合い、いい感じに肩の力が抜けたところで康煕が言い出した。
「なぁ、ここが異世界なら持ち物チェックしといたほうが良いんじゃないか?」
「持ち物チェック?なにそれ」
安定の返しに、康煕は思わず笑った。
笑われた千隼はムッとして「なにが、そんなに可笑しいの!」と、頬を膨らませ拗ねたような素振りをしてみせた。
「わ、悪い・・・」と言いながらも、なかなか笑いを収めることができず肩を震わせている。
千隼の知る康煕とは別人なのではと思ってしまうほど、目の前の男は一つ一つの所作が優雅で美しい。
もともと彼は、幼い頃からイケメンの部類に入るほど整った顔立ちにモデルでもしているんじゃないかと思うほど手足が長く高身長だったのだ。
そんな彼が成長すれば、もう何も言わなくても想像ができるだろう・・・
やっと笑いを引っ込めた彼は、バッグの中身を取り出し、ここから移動する際に役に立つか否かを知るための行動なのだと説明してくれた。
「俺のバッグの中身は、着替え一式に保存食数種。あと、スマホと財布に水だな」
「ねぇ、何でそんなに準備いいの?おかしくない?明らかに行方不明になっても当面の食事や洋服を予め用意してたみたいじゃん!」
「当然だろう。何を今さら驚いてるんだ?次は、お前のも見せろよ」
唖然と康煕を見ていた千隼は、改めて幼馴染の用意周到さに頭が上がらない。
なかなか戻ってこない千隼にもう一度声をかけ、バッグの中身を確認するため急かしたのだった。
「えっと、僕のは・・・。勉強一式に飴とお財布とスマホかな」
この流れで分かる通り、千隼は登校中に強制招待された。なので、鞄の中身は当然授業で使う私物がメインになる。
康煕は卒業している為、バッグの中身が旅行にでも行くのではないかと思われるような物なのだ。
神々も吃驚するほど用意周到な康煕・・・
はたして、康煕の鞄の中身が事前に用意されていたのか。今となっては謎に包まれている・・・
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