チューリップ

3/3
前へ
/3ページ
次へ
大学試験合格発表の日、多くの受験者やその家族が合格掲示板を見つめる。 わたしも自分の受験番号を探す。 一瞬の静寂 「あった。合格だ。」 あっちこっちで、おめでとうや万歳、泣き崩れる学生たちの声が聞こえてくる。 「母さん、わたし受かったよ。」 わたしは、家で待つ母に電話した。 「うん。うん。良かった。良く頑張ったね。おめでとう。」 電話の向こうで泣いてる母。わたしもつられて涙が溢れる。 「ありがと。母さん、ありがと。」 同じ大学を受験した友だち達も回りに集まり みなで喜んだ。 嬉しい、嬉しくてたまらない。 けれど、1番嬉しさを分かち合いたい貴方がいない。何故、貴方はいない。 貴方に、良かったなって、抱きしめてもらいたい。 その日の夜、 大学生の男子が路上から突然出てきたトラックに跳ねられ、死亡したニュースが報じられた。 「現場には、おめでとうのカードが添えられた色とりどりのチューリップの花束が、散らばっていたとのことです。春の交通安全期間中の出来事、気をつけたいものです。次のニュースです。」 ニュースキャスターが無表情で喋っている。 わたしは、テレビを消した。無意識に貴方のマフラーを爪痕が残るくらい、握っている。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加